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10月31日:RNA編集による突然変異治療(Scienceオンライン版掲載論文)

2017年10月31日
今年のノーベル賞はクリスパーを素通りしたが、受賞が時間の問題であるのは間違いない。ただノーベル賞より先に、特許の帰属が今年の話題になった。米国特許庁はクリスパーの生物学から技術開発へ進んだダウドナさんやシャルパンティエさんではなく、「遺伝子編集を動植物に使うためのレセピーを確立した」チャンさんにクリスパーの利用に関する特許が帰属すると裁定した。その意味で、ノーベル賞がダウドナさんとシャルパンティエさん以外にも与えられるのか判断が難しく、受賞が延びているのかもしれない。

個人的には2人で十分だと思うが、しかしチャンさんの技術開発の完全主義は徹底しており、天性の物を感じる。今日紹介する論文もそんな一つで、DNAではなくRNAを標的にした編集についての研究でScienceオンライン版に掲載された。タイトルはずばり「RNA editing with CRISPR-Cas13(CRISPR-Cas13によるRNA編集)」だ。

この研究の目的は明確だ。これまで遺伝子編集は細胞のゲノム編集とほぼ同義に使われてきたが、この研究ではmRNAを標的に編集を行うシステムを開発が目指されている。

RNAの場合、ノックアウトだけならshRNAなどによるノックダウンがあるが、この研究ではRNAの配列を変えて、突然変異を持つRNAを正常のタンパク質をコードするRNAに変えることを目指している。

これまでの研究から、RNA編集にはRNAの内部でカットするエンドヌクレアーゼ活性を持つCas13が適していることはわかっている。ただ、この研究では目的に最も適したCas13を選ぶため、現在わかっている43種類のCas13をRNAノックアウトの効率を指標にして比較し、最も活性の高い2種類のCas13をLeptotrichia wadei(LWA)とprophyromonas gulae(Psp)という聞いたこともない微生物からそれぞれ選んでいる。中でも PspCas13bはなんと細胞中に存在する標的RNAの90%以上を無力化できることを示している。そして、shRNAを使うノックダウンと比較し、特異性がノックダウンより優れていることを示している。

このように予備実験を繰り返した後、次にノックアウトではなく、編集を行うためにRNAのAdeninからアミノ基を取り除きInosinに変化させるRNA デアミナーゼ(ADR)をエンドヌクレアーゼ活性を取り除いたCas13と融合させ、CasをRNA切断だけではなく、標的を編集できるようにする検討を行っている。

これも活性が上昇する突然変異も含め、まずADR-Cas13キメラ分子の標的編集能力(AをIへの変換)と、標的へガイドするRNAと標的の関係を指摘化し、編集能力や、標的以外の望まない編集の起こり方を徹底的に調べ、これまで開発してきたADR-Cas13システムの欠点を洗い出している。

基本的にはガイドとは無関係の編集もADR自身の活性で起こるが、AからIへの編集で治る突然変異なら2−30%の標的RNAを編集して治療できるところまでこぎつけている。もちろんこれで満足せず、より高いガイドへの特異性を高めるため、分子構造に基づき特異性を高める可能性のある突然変異体17種類を導入したタンパク質を作り、標的のみにより高い活性を持つ変異体を選んでいる。こうして出来上がったシステムでは、標的以外の遺伝子の編集は大幅に低下し、KRASで27%の効率でRNAの変異を元に戻せることを示している。おそらく、チャンさんの基準からはまだまだという段階だろうが、ここまででも途方もない実験量だったと思う。これ以上は次の機会として論文をまとめたのだろう。

まだまだ効率は悪いかもしれないが、アデノシンの脱アミノ反応で治せる変異の数は多い。また、RNA編集は遺伝子に傷がつかないことから、標的以外の変異が起こっても一過性で、一時的にだけ遺伝子の発現を誘導することで治療が可能な病気を選べば今の段階でも利用可能ではないかと思う。次は用途も含めた論文が出てくると期待できる。

これまでちょっとしたアイデアをクリスパーの系と組み合わせる論文は数多く発表されているが、目的を決めればやれることは徹底してやるグループは数少ない。チャンさんは今後もこの方向のリーダーとして活躍するだろう。

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