今日紹介するベルリンのマックスデルブリュックセンターとシャリテ病院を中心とする論文はマウスモデルで腸内細菌叢に対する高食塩食の影響を調べた論文で11月15日号のNatureに掲載された。タイトルは「Salt-responsive gut commensal modulates Th17 axis and disease(塩に反応する常在菌がTh17と病気に影響する)」だ。
もちろん塩分を摂りすぎることが高血圧だけでなく、心臓病や腎臓機能低下を来すメカニズムについは生理学的に理解が進んでいる分野で、新しい観点から研究するのが難しい分野だ。この研究では、塩分の取りすぎがTh17を活性化するという最近の研究にヒントを得て、他の慢性疾患と同じく塩分の取りすぎは腸管を通してTh17が活性化し、炎症が起こることが様々な病気につながるのではと考えこの研究を始めている。その意味では、動機は論理的というわけではないが結果として面白い可能性を掘り当てている。
まず普通の餌を与えたマウスに、余分に食塩をあたえ、腸内細菌叢を調べると、目立ったパターンの変化はないものの、数種類のバクテリアの、特に乳酸菌がすぐに低下することに気がついている。すなわち、餌の内容は同じということで、細菌叢のパターンが大きく変わることはないが、塩分に明瞭に反応する細菌が存在するという結果だ。
マウスの便の培養から、最も減少が激しいのがLactobacillus murinusで(おそらくmurinusという学名からマウス固有の乳酸菌なのだろう)、残念ながら人には存在しないようだ。そこで、ヒトに常在する乳酸菌を高食塩と培養する実験を行い、murinusと同じように高食塩で増殖が抑えられる乳酸菌を幾つか特定している。
次に、L.murinusが減少することが炎症を高めるのではと、多発性硬化症モデルマウスにL.murinusを摂取させると、Th17が減少して炎症が抑えられる。さらに驚くのは、塩分の高い食事をさせているマウスにL.murinusを補ってやると血圧が低下する。同じ効果は、ロイテリ乳酸菌株でも確認している。すなわち、塩分の高い食事で起こる高血圧や炎症の増悪の一部は、L.murinusが減少する結果で、これを補ってやれば治るということになる。
最後に、人間のボランティアを用いて塩分を6g余分に摂らせる実験を行い、乳酸菌類が確かに減少し、末梢のTh17細胞が増加していることを確認している。
血圧が下がるというこの結果は重要で、今後様々な乳酸菌でテストが行われるだろう。目的の菌の増減は、便のインドール量でわかることから、わりと短期のテストで検証が可能だろう。ロイテリ菌はネッスルが独占していると聞くので手に入りにくいなら、ネズミの固有の菌でも十分な気がする。今後の展開を期待したい。