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11月27日:うつ病は脳血管の障害?(Nature Neuroscience掲載論文)

2017年11月27日
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分子メカニズムをたどって行くと、新しい組織発生の中には外界のストレス反応と共通の分子を使っている過程が多いことがわかる。例えば、毛の発生にはEDDAと呼ばれる炎症性サイトカインTNFファミリー分子が関わり、その結果ICAM等の接着因子が誘導される。同じように哺乳動物で進化したリンパ節やパイエル板、乳腺などもそうだ。もちろん、多くの病気も最近では炎症との関わりで考えられるようになっており、動脈硬化は言うに及ばず、糖尿病でのインシュリン抵抗性も慢性炎症として捉えるようになっている。

今日紹介するニューヨーク・マウントサイナイ医大からの論文は社会ストレスで誘導されるうつ病も血管の透過性が上昇することで始まる炎症に起因する可能性を示した研究で11月号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Social stress induces neurovascular pathology promoting depression(社会ストレスは神経血管の異常を誘導しうつ病を増悪させる)」だ。

このグループもうつ病を炎症という切り口からアプローチできないか試みていたのだと思う。これまで、うつ病ではIL-6が上昇していることなどを報告している。ただ、末梢血での現象が脳でも起こっているかはわからない。特に脳血管関門が存在し、脳は末梢の影響が簡単に及ばないようできている。そこで、脳血管関門を調べる目的で、血管内皮の接着に関わるタイトジャンクション分子claudin5(cld5)の発現を、自分より大きなマウスと同居することでストレスのかかったマウスの脳で調べている。結果は期待通りで、側坐核や海馬などうつ病に関わる領域のcld5の発現が落ちていることを発見した。この結果を、組織学的、また血管の透過性のテストでも確認できるので、ストレスにより脳の特定の領域のCld5などの接着分子発現が低下し、結果として局所の脳血管関門が破れることがうつ病に関わる可能性が出てきた。また、うつ病で自殺した患者さんの脳でも、同じようにcld5の発現低下が起こっていることも確認し、これがマウスだけの現象でないことを示している。

では血管の透過性が上がればうつ病になるのか?これを調べるため、アデノ随伴ウイルスベクターにcld5遺伝子発現を抑えるshRNAを組み込んで脳に注射する実験で、cld5のレベルを落とすだけでうつ症状が起こることを示している。この透過性により、様々な炎症性サイトカインが脳内に滲出し、脳内への細胞浸潤はあまり見られないが、脳内の血管や脳室に血液細胞が溜まる不思議な炎症状態が起こることがうつ病ではないかと結論している。

cld5を低下させるだけでうつ症状が発生することを示し、血管の変化が早期の引き金になっていることを示したことがこの論文のハイライトだろう。ただ、なぜcld5の発現が低下するのか、EMTではないのか、最近うつ病の原因として注目されている神経幹細胞の増殖はどうか、などほとんど手つかずのまま残っている。いずれにせよ、このスキームが正しいなら、うつ病の治療可能性は広がる。次は是非、治療という観点からの論文を出して欲しいと期待する。

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