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1月8日:強いオスを選ぶ競争メカニズムの原点(1月5日号Science掲載論文)

2018年1月8日
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クジャクを見ると、生殖上の競争を勝ち抜くために、壮大な形質変化が進化の過程で生まれることを示している。これは、性生殖、すなわち異なる個体のゲノム同士の組み換えが、種の保存に重要で、想像を絶するほどのコストを払ってもペイするだけの価値があることを意味している。

ただ、オス・メス型の性生殖を行わない、自殖型の動物も存在し、それを見ていると多様性の維持には組み換え自体が重要で、異なる個体である理由はそれほどないこともわかる。とはいえ、ほとんどの動物はオス・メス型の性生殖を行うことから、間違いなく個体間の競争が重要で、基本は強いオスが勝つ構造が必要になるはずだ。

今日紹介するメリーランド大学からの論文はこの競争に関わるメカニズムを、交配型と自殖型のカエノラブティティス(即ち線虫)を比べて明らかにしようとした力作で1月5日号のScienceに掲載された。タイトルは「Rapid genome shrinkage in a self-fertile nematode reveals sperm competition proteins(自殖型線虫に見られる急速なゲノム収縮は精子間競争に関わるタンパク質を明らかにした)」だ。

実験に用いられる線虫(C.elegance)は自殖型だが、多くの線虫種はオス・メス交配で、一般的に自殖型よりゲノムサイズが大きいことが知られている。この研究では、進化的に最も近く、また人工的に種間で生殖可能(例えば現代人とネアンデルタールを思い浮かべればいい)な線虫C.nigoni(交配型)とC.briggsae(自殖型)を選んで、ゲノムを比較し、自殖型と交配型に分かれることでどの遺伝子が必要なくなるかを調べている。

なんと自殖型ではゲノムサイズが25%近くも減少しており、26000近い遺伝子のうち、3000遺伝子が失われる。さらに詳しく見ると、オスで発現している遺伝子が多く、やはり強いオスを選ぶ戦いというのがこの種では正しいことがわかる。

そして、競争を支える分子の詳細な検討から、他の自殖種でも欠損し、すべての交配種に存在する、しかもこれまでほとんど研究されていなかった、精母細胞に強く発現するmss分子に焦点を当てて研究を進めている。

Mssは合成された後小胞体を介して細胞膜に結合したまま、細胞膜のピットを形成する役割を持つようだが、詳しい機能はほとんど分かっていない。この研究ではまずmssを欠損した精子は、卵子に接合はできるが、正常型の精子と競争させると、全く生殖できなくなることを示している。次に、もともとmssの存在しない自殖型にこの遺伝子を挿入し、mssが精子間競争に勝つために重要であることを示している。

最後に、mssを導入した自殖型線虫と普通の自殖型線虫を維持して、オスと雌雄同体型の比率を調べると、通常すぐに雌雄同体型優位で、オスが消失するのに、mssを導入した自殖型線虫では12代にわたってオスの比率が維持されることも明らかにしている。

これまで精子の泳ぐ能力などの違いで精子間競争に関わる分子は知られていたが、この研究で明らかになったmssは自殖型では全く存在しない点で、正真正銘のオスの競争力に関わる原点とも言える遺伝子だ。残念ながら、その細胞学的機能は分かっていないので、今後さらなる研究が必要だが、それも時間の問題だろう。いろんな想像を掻き立てられる面白い論文だった。

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