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3月31日 リンパ節転移は血管を通して全身に広がる(2月23日号Science掲載論文)

2018年3月31日
ガンのステージングは、腫瘍の大きさ、リンパ節転移、そして遠隔転移を組み合わせて行われる。すなわち、リンパ節転移は遠隔転移とは別の意味があるとしてこれまで利用されてきたことを意味する。ガンのリンパ節転移を考えて見ると、局所で腫瘍から組織へとこぼれ落ちたがん細胞は、組織に張り巡らされた輸入リンパ管を通してリンパ節に到着する。そのあと、今度は輸出リンパ管を伝ってほかのリンパ節に移動し、いわゆる累々とリンパ節が腫れるという状況を作り出す。そして、リンパ管系は最終的に胸管を介して血液に繋がっているので、最後は血管転移に進むことは考えられるが、このルートの場合血管転移は最後の最後になる。この考えに立つと、リンパ節は血管転移を守ってくれるとすら言えるため、リンパ節郭清の意義については、疑問を持つ人も多かった。

今日紹介するウィーン医科大学病理学教室からの論文は、リンパ節転移と血管転移という病理学の伝統的問題にチャレンジした実験研究で3月23日号のScienceに掲載された。タイトルは、「Lymph node blood vessels provide exit routes for metastatic tumor cell dissemination in mice (リンパ節内の血管がマウスでの腫瘍の全身転移のための出口になっている)」だ。 このグループは腫瘍を輸入リンパ管に直接注入する方法を開発し2011年Nature Immunology報告している。これまで転移研究では、原発巣から少しづつこぼれ落ちる細胞を追いかけていたが、時間がかかりすぎてラチがあかないのでできるだけ多くの腫瘍を輸入リンパ管に注射してリンパ節を腫瘍で満たすという病理学者ならでの方法だ。臨床医として働いていた時、一度リンパ管造影を行なった経験があるが、人間でもリンパ管を探すのは簡単ではない。ほかの研究室でもそう簡単にできないだろう。

さてこの方法で大量のがん細胞をリンパ節に移動させると、2ー3日でリンパ節の内部に到達し、様々な転移マーカーが誘導され、3日目にはほとんどが、リンパ節特有の血管構造High endothelial vessel(HEV)と密接な接触を保つようになる。驚くことに、この方法でリンパ節に多くのがん細胞を注入すると、6ー11日目には肺に転移層が見つかる。このスピードはリンパ管を順番に伝って胸管をとおして血管に入ったとは考えにくく、HEVを出口として血管に侵入したと考えざるを得ない。

この結論がこの研究のハイライトで、あとは胸管を通った転移でないことをリンパ管を結紮して証明したり、彼らの実験系が非生理的な特殊な現象ではないことを示すための実験を行なっているが、詳細は必要ないだろう。

しかしリンパ管に直接大量のがん細胞を注入するのは、非生理的と言わざるを得ないが、それでもこのような方法で初めて見えたことがあることが重要だ。この研究では現象論的レベルで終わっているが、もし本当にHEV を介してしか転移が起こらないとすると、今後全身転移を防ぐ新しい方法も開発できるかもしれない。もちろん、リンパ節郭清の意味についても新しい視点で考える必要がある。

病理というと古臭いと思う若い人が多いかもしれないが、まだまだ重要な問題は多く横たわっている。ウイーンの病理学というと、体液説を掲げてベルリンのウィルヒョウと張り合ったロキタンスキーを思い出すが、ウィーンらしい研究だと思った。


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