AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 5月29日 転移に特異的な薬剤は開発できるか?(5月16日Science Translational Medicine掲載論文)

5月29日 転移に特異的な薬剤は開発できるか?(5月16日Science Translational Medicine掲載論文)

2018年5月29日
ガンが発生場所にとどまって増殖するだけなら、対応も楽だ。周りの組織の圧迫や、血管リモデリングなどいろいろ問題は出てくるにせよ、大きくなれば切除することで、制御できると思う。実際良性のガンの中には、何キログラムにも及ぶ大きさに達するものも存在するが、場所さえ問題なければ命に別状はない。しかし、多くのガンではそうは問屋が卸さない。転移がおこるからだ。転移によりガンが身体中に散らばって取りきれないという問題とともに、転移性を持つと同時にガンがさらに悪性になることも知られている。従って、ガン、特に進行癌を制圧する一つの鍵が、転移の抑制になる。

今日紹介するカンサス大学からの論文はズバリ転移ガンの弱みを標的にする薬剤の開発研究で5月16日発行のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Metarrestin, a perinucleolar compartment inhibitor, effectively suppresses metastasis(perinucleolarコンパートメントの阻害剤Metarrestinは効果的に転移を抑制する)」だ。

この研究では、転移ガンで核小体近くにできる核内構造物perinucleolar compartment (PNC)が高率にみられることに注目し、PNC形成を阻害できれば転移ガンを制御できるのではと着想している。これまでの研究でこの構造にpolypyrimidine track binding protein (PTP)が濃縮していることが知られている。そこで、PNCに存在する分子PTP遺伝子にGFPを結合させたキメラ遺伝子を導入してPNCをモニターできるようにした転移ガンにさまざまな化合物を加え、PNC形成阻害する化合物をスクリーニングし、in vivoでも利用できる性質を持った化合物が見け、それをmetarrestinと名ずけている。

Metarrestinをガン細胞に加えると、PNCの形成を抑え、増殖も強く抑制できる。ところが、PNCの形成されない正常細胞株に加えても、増殖抑制はない。さらに、膵臓癌を移植するモデルシステムで、転移を抑え、ガンを移植したホストの生存を大きく伸ばすことができる。驚くのは、移植腫瘍モデルで転移を強く抑えても、最初に移植したガン細胞の増殖には大きな影響がなく、まさに転移を特異的に抑える薬剤が出来たことになる。

他のガンでも同じ結果が得られることを確認した上で、最後にmetarrestinの作用機序について調べている。詳細は省いて結果をまとめると次のようになる。

核内でMetarrestinにより最も影響を受けるのが、RNAポリメラーゼIによるリボゾームRNAの合成で、一般的な転写に関わるポリメラーゼIIへの影響は全くない。これは、metarrestinがポリメラーゼI複合体を壊す働きがあるからで、完全に証明できているわけではないが、metarrestinが直接eEF1aと結合することで、リボゾームRNAに関わる転写を抑え、PNCの形成を阻害するのではと考察している。

メカニズムについては、さらに研究が必要だと思えるが、ガン特異的化合物という点では、かなり期待できる感じがする。さまざまな癌に効くし、転移巣により効果がある。メカニズムも、悪性のガンとして増殖するときどうしても無理がたたるポイントを狙った治療である点も合理的に思える。完治に持っていける薬剤には思えないが、延命効果は期待できそうだ。

  1. 河野公俊 より:

    結果的にがん細胞のような未分化細胞では圧倒的にPolI活性が高いので、移植実験系で原発巣に効果がないのがよく理解できない。何か転移への形質転換特異な機構が隠されているのか?転移への形質転換を抑えるのか?いずれにしても、いつも感じることは、この手の転移関連薬剤は実臨床ではいつそしてどれくらいの期間投与するべきかが難しいきがする。確かに完治できないが延命はできるかもしれない。

    1. nishikawa より:

      同感ですが、なんでもやってみようという姿勢には感心しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*