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8月19日:乳糜管からの脂肪吸収(8月10日号Science掲載論文)

2018年8月19日
脂肪は腸でカイロミクロンと呼ばれるリポタンパク質へと変換され、腸の絨毛内に張り巡らされた乳糜管と呼ばれるリンパ管にまず入り、そこから腹腔リンパ管、胸管を経て血中に入る。脂肪の多い食事をとると、血液が濁ったように見えるのも、この経路で脂肪が吸収されるためだ。よく考えて見ると、脂肪代謝の入り口に位置し極めて重要な過程と言えるのに、脂肪の吸収についての論文をあまり読んだことは無かった。

今日紹介するエール大学からの論文は絨毛で脂肪がリンパ管に吸収される精巧なしくみを明らかにしたもので8月10日号のScienceに掲載された。タイトルは「Lacteal junction zippering protects against diet-induced obesity(乳糜管の接合のチャックが食餌による肥満を防いでいる)」だ。

乳糜管が脂肪吸収に必須であることは、これまでもこのリンパ組織をノックアウトする研究からわかっていた。また、脂肪が乳糜管内へと吸収されるためには、内皮接合の強さをVEGF-Aで調節する必要があることもわかっていた。

もともとこのグループは血管内皮に発現するVEGF-AのFlk1への結合を阻害するFLT1とニューロピリン1(NRP1)の研究を行なっており、このためリンパ管を含む全ての内皮で両方の遺伝子を生まれてから欠損させるマウスを作り調べていた。その過程で、このマウスが高脂肪食をとらせても太らず、これが絨毛でのカイロミクロン吸収不全にあることに気づいた。基本的にはこの発見がこの研究のすべてで、あとはメカニズムを調べた極めてオーソドックスな血管研究だ。

入り口で脂肪吸収が阻害されると、高脂血症の全ての指標が改善しており、当たり前とはいえ驚く。また、他の血管には何の変化もなく、普通の餌を与えたマウスはコントロールと特に違いがないのも驚きだ。すなわち、この分子の生後の機能は絨毛の脂肪吸収のためにあると言っても過言でない。

組織学的に調べると、このノックアウトマウスでは、普通数多く開いている絨毛のリンパ管の接合部が閉じカイロミクロんの侵入ができなくなっている。ところが血管内皮を見ると、全く逆で内皮間の接合部が開いて毛細管が拡張し、注射した蛍光タンパク質も、この場所で漏れ出てくるのが観察できる。

この組織像の原因を確かめるため様々な実験を行い、
1) Flt1/NRP1ノックアウトではVEGF-AのFlk1への結合が阻害されるため、局所的にVEGF-Aの濃度が上昇する。
2) VEGF-Aは血管内皮の細胞接着を緩めると同時に、リンパ管内皮の接着を強める。
3) リンパ管と血管で別々にFlt1/NRP1をノックアウトする実験を行うと、血管内皮でノックアウトした時だけ同じ効果が見られるので、血管内皮でVEGF―A結合を抑制して、VEGF-Aの絨毛内濃度を高めることがFlt1/NRP1の絨毛内での機能。
4) 血管内皮の接着が緩むだけではリンパ管へのカイロミクロンの侵入は阻害できない。
5) VEGF-Aによりリンパ管の接着が高まるのは他の組織でも見られる。
などを明らかにしている。

これらの結果から、VEGF-Aがリンパ管と血管内皮の接着には逆の作用があり、これにより絨毛での脂肪吸収がうまく調節されているという、面白い結果だ。ひょっとしたら、入口を止めて高脂血症を防ぐ薬も開発できるかもしれない。

私事になるが、この研究を行ったEichmannはフランスでニコル・ドゥアランの大学院生時代、京大の私の研究室に、鶏のFlk1に対するモノクローナル抗体を作るために逗留していた。なんと、滞在中にコンストラクトを全て仕上げ、帰国後見事に抗体を作りそれから素晴らしい血管研究者に育った。いい仕事をしているのを見ると、当時が思い出される。

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