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8月26日:RIPK1と神経炎症(9月6日号Cell掲載論文)

2018年8月26日
昨日に続いて、神経疾患と炎症についての論文を紹介したい。ただ、昨日のような現象論ではなく、炎症シグナルの核となる分子の機能を神経疾患で調べた研究だ。

これまでの研究でTNFなどによる炎症と細胞死の誘導に最も重要な核として働く分子としてRIPK1が知られている、これについての研究論文は山ほどある。8月24日発行のScienceに、両方の染色体でRIPK1が変異を起こした4人の患者さんについての報告がケンブリッジ大学から発表された(Cuchet-Lourenço et al, Biallelic RIPK1 mutations in humans cause severe immunodeficiency, arthritis, and intestinal inflammation, Science 361:810, 2018)。この患者さんでは予想通り、強い免疫不全が見られる一方、逆に関節炎や腸炎が見られる。この結果は少なくともヒトでは免疫系が関わる炎症にRIPK1の機能が限定されているように思える。このようにヒトとマウスを結びつける研究がまだまだ必要だ。

少し前置きが長くなったが、今日紹介するハーバード大学と上海の有機化学研究所からの論文は、マウスモデルでRIPK1の機能を抑制することが知られているシグナル分子TBK1の機能を通して炎症と神経疾患や老化について調べた研究で9月6日号のCellに掲載された。タイトルは「TBK1 Suppresses RIPK1-Driven Apoptosis and Inflammation during Development and in Aging(TBK1は発達過程と老化過程でRIPK1による細胞死と炎症を抑制する)」だ。

何か雑然として、ともかくデータを生産したといった感じに見えてしまうが、読み終わってみると重要な話であることがわかる。RIPK1,TBK1のリン酸化酵素としての機能については詳しく解析がなされており、これらの分子については様々な遺伝子改変モデルが作成されている。この研究では、まず発生が途中で止まってしまうTbk1ノックアウトマウス(阪大の審良さんたちが作成している)のRIPK1を、キナーゼ活性が欠損した遺伝子に置き換えると、正常に発生できることを確認し、TBK1が肝臓の発生時RIPK1活性化による細胞死を抑えることで正常発生が可能になることを明らかにしている。肝細胞の発生に、細胞死とその抑制のバランスの調整が必要であること自体新しいと思うし、またFASによる劇症肝炎もさもありなんと思うデータだ。

発生での機能を調べた後、詳細は省くが、TBK1によるRIPK1の制御機能を線維芽細胞で詳しく調べ、TNF受容体にRIP1Kが結合して起こる活性化によりTBK1がRIPK1にリクルートされ、RIPK1を直接リン酸化して、TNFによる細胞死を抑えることを明らかにしている。すなわちTBK1は、同じような機能をもつTAK1とともにRIPK1がハブとなる炎症や細胞死を調節している。このTBK1とTAK1が協力し合って炎症を抑えるという構図を確認するため、発現がともに半減しているダブルヘテロマウスの線維芽細胞を調べ、RIPK1の活性が上昇していることを確認している。

実はここまではこの研究の伏線になっているように思う。この研究ではTAK1,TBK1のダブルヘテロ状態を血液細胞が持っているモデルマウスを作って、RIPK1が慢性的に活性化すると何が起こるか調べている。結果は予想通りで、ミクログリアが活性化し、さまざまな炎症性サイトカインを分泌するようになっている。その結果として、脊髄神経の細胞死が高まり、詳しく調べると運動障害も発症する。さらに、2ヶ月齢をコス頃から人間の前頭側頭型認知症と呼ばれる状態が発症してくることを示している。

このように、炎症の起点となる血液細胞で発現しているRIPK1は、炎症にとどまらず、発生から老化、そして神経再生に至る全ての段階で重要な働きをしているというのが結論になるだろう。実際、発生過程でRIPK1が肝臓の細胞死のバランスを調整しているというのも新しい考え方だし、ALSや前頭側頭型認知症ではTBK1の関与が示唆されていたが、この理由も理解できた。

これまでメタボも含め、私たちの体の慢性的な変化を炎症として捉えることが当たり前になってきたが、その発生メカニズムの一つがRIPK1とその抑制分子に落ちてきたので、今後より研究は加速するように思う。

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