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8月27日 カニクイザルでのSIRT6ノックアウト(8月22日号Nature掲載論文)

2018年8月27日
CRISPR/Casによる遺伝子操作の可能性はまだまだ広がると思うが、様々な分野での応用も、ともかく実験してみたというレベルから、CRISPRならではの成果がしっかりと得られる収穫期に入ってきたように思う。中でも、人間に近いサルでの遺伝子操作は期待が高く、これまでも遺伝子ノックアウトの作成に成功した論文は発表されてきた。ただこれまでは、編集ができることを示すことが主目的だったり、作ったサルの他の研究への応用可能性を示すノックアウトが多く、編集した分子について新しい生物学的発見が示されるまでの研究は私が読んだ中にはなかった。

ところが今日紹介する中国科学アカデミー生物物理研究所からの論文は、サルのノックアウト研究の重要性を明確に示した研究で8月22日号のNatureに掲載された。タイトルは「SIRT6 deficiency results in developmental retardation in cynomolgus monkeys(SITR6機能不全により誘導されるカニクイザルの発生遅延)」だ。

なぜSIRT6なのかについては論文中にほとんど書かれていないが、結果的に絶妙の選び方ができている。もちろんCRISPR/Casを用いて直接受精卵の遺伝子を編集しているが、培養細胞で効率を確かめたガイドRNAを同時に6種類使うなど、効率を上げる努力が行われている。その結果、98個の受精卵に直接遺伝子編集を行い、その内正常発生した48個の胚を12匹のサルの子宮に注入し、なんと生まれてきた3匹のメス全てが、ほぼ同じ箇所の遺伝子の欠損が起こっていた(一匹については2箇所が挟む大きな領域の欠損)。

さて、SIRT6はヒストン脱アセチル化酵素の一つで、様々なストレスに反応して、遺伝子発現、修復、代謝、炎症など多くのプロセスに関わり、現在では特に老化遺伝子として研究されている。しかし、マウスモデルは系統により症状がバラバラで、他にもSIRTが存在することから、ほとんどのノックアウト論文は中途半端で終わっている。

一方、この研究ではほとんどの組織で、細胞の成熟化が抑えられ、その結果、生まれてきた全てのサルが死んでしまう。この原因を探ると、これまで知られていたように特にTCAサイクルやミトコンドリアの電子伝達系などに関わる多くの遺伝子の発現が変化し、エネルギー代謝が変化した結果、発生や増殖が遅延することが大きな要因であることがわかる。

さらにこの原因を探していくと、H19の転写がノックアウトサルで高まっていることがわかる。H19は母親側の染色体でサイレンシングを受けている遺伝子で、ノンコーディングRNAで、これが発現してしまうと、発生が遅延する。マウスを用いた実験で、SIRT6が欠損するとオスマウスは生後急速に死んでしまうが、メスマウスでは生き残る個体が多いことが知られているが、この実験で生まれてきたサルの全てがメスだったことも、この結果に対応し、オスの方がH19の発現の影響を受けやすいことを示しており、老化を考える上でも重要だと思う。

そしてこのH19抑制がインプリントされた領域のヒストンK56の脱アセチル化に関わるのがSIRT6であること、ノックアウトの多くの形質がH19の転写で説明できること、そしてヒト神経幹細胞を用いた研究で神経発生もSIRT6の抑制で遅延することなどを示している。

サルの研究と言う目で見なくとも、十分優れた分子発生学の研究で、読み応えがある。その上で、マウスでも気づかれてはいたが、解析がほとんど進んでいなかった新しい視点が入って、発達ではなく老化研究にも大きな貢献ができていると思った。今後、ヘテロ変異サルなどが作られると、サーチュインと老化についての研究も、現象論を超えてメカニズムへ進む予感がすると同時に、サルでないとわからないことは数多くあることを実感した。

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