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8月30日 ドーパミンニューロンのシナプス形成の分子機構(9月6日号Cell掲載論文)

2018年8月30日
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CRISPR/CasやTALENの登場で、遺伝子編集は楽になり、ますます特定の遺伝子に変異を導入する手法、すなわち遺伝子を編集した結果の表現を動物で確かめるリバースジェネティックスの有用性は益々高まってきている。しかし、私が現役の頃は、ようやくトランスジェニックマウスができるようになったばかりで、遺伝子の編集など夢のまた夢だった。そのため、形質に異常を持つ動物を作成したり、集めたりした後、その原因遺伝子を明らかにするフォワードジェネティックスは、苦労はあっても研究の主流だった。かくいうわたし達も、熊本大学時代は、変異マウスの遺伝子を決める事を重要な戦略にしていた。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文はドーパミン神経のシナプス形成に関わる遺伝子を、フォワードジェネティックスで特定し、その機能の詳細を解析した極めてオーソドックスな研究で9月6日号のCellに掲載された。タイトルは「The THO Complex Coordinates Transcripts for Synapse Development and Dopamine Neuron Survival(THOC複合体はドーパミン神経のシナプス形成と生存に必要なmRNAをコオーディネートする)」だ。

フォワードジェネティクスの研究なので、最初からドーパミン神経のプレシナプス形成に必要な分子を発見するため、線虫のドーパミンニューロンのシナプス形成が異常になる突然変異をスクリーニングし、THOCに行き着いている。また、おなじく線虫を利用してTHOC5やTHOC1がドーパミン神経で働いている事を明らかにしている。

以前なら、線虫の遺伝子と形質を結びつければ話は終わっていたのだが、現在ではそうは行かないようだ。この研究でも、同じ遺伝子をマウスのドーパミン神経でノックアウトし、シナプス形成が抑制され、その結果ドーパミンニューロンが変性する事も示している。さらに、ドーパミン神経の興奮を遺伝子導入により抑制すると、TOHC5欠損によるドーパミン神経の変性を抑えることができることを示している。すなわち、 THOC5神経のは興奮によるシナプスの変化に関わり、刺激が無ければTHOC5は必要がないことを示している。

これまでの研究でTHOCは転写時にmRNAに結合して核外にmRNAの核外輸送を高めることがわかっている。この研究では、この過程についても線虫を用いた遺伝的研究を行い、神経興奮によりCREBと SRFが誘導され、THOC5と複合体を形成することでTHOC5がmRNAと結合して、核外輸送を高め、シナプス形成を促すことを示している。さらに面白いことに、THOC5は全てのmRNAに結合するわけではなく、おそらくシナプス形成に関わる遺伝子に選択的に結合して、シナプス形成特異的に働いている可能性を示している。これは、8月21日に紹介したCPEB結合による翻訳の調節が、自閉症関連遺伝子により特異的に働くこととよく似ている(http://aasj.jp/news/watch/8821)。脳回路の特性はシナプスの伝達性で決まっていき、これにはシナプスでの遺伝子発現の変化が重要な要因になる。2つの論文が示すように、必要な遺伝子のmRNAだけをまとめて調節するする仕組みは、今後脳の進化を考える上で重要なポイントだと思う。 驚くことに、この研究はマウスに留まらず人間の病気ALSがTHOC1の変異で起こるケースがあることまで示しており、この変位を線虫に導入するとシナプス形成異常による神経変性が起こることまで示している。オーソドックスなフォワードジェネティックスを入り口として、広がりのある分子遺伝学の力作だと感心した。

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