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8月31日:遺伝子操作大腸菌を用いたフェニルケトン尿症の治療(Nature Biotechnologyオンライン掲載論文)

2018年8月31日
フェニルケトン尿症は古くから知られており、私が学生の時からわかっていた遺伝疾患で、フェニルアラニンを分解するフェニルアラニン・ハイドロオキシラーぜ(PAH)をコードする遺伝子やその補酵素の機能喪失変異により起こる。結果、血中濃度フェニルアラニンの濃度が上昇し神経毒性を発揮するため、不可逆的な知能障害、感情障害が起こってしまう。

これを防ぐため、生後すぐに新生児の尿のスクリーニングで発見して、フェニルアラニンの摂取を制限して血中濃度が高まるのを防ぐ治療が行われる。実を言うと私自身の知識はここで止まっており、新生児スクリーニングと食事制限でこの病気の治療開発は終わったのかと思っていた。ところが、原理的に治療が可能でも、一生続く厳密な食事制限は大変で、生活の質を高めるべく今も、PAHを活性化する薬剤などで併用して食事療法を補完する方法、酵素そのものの投与、そして切り札としての遺伝子治療まで様々な治療法の開発が今も続けられていることを知った。

今日紹介するボストンにあるSynlogicという会社からの論文は、なんとフェニルアラニンを分解する酵素システムを組み込んだ大腸菌で、体内のフェニルアラニンを積極的に分解してし、食事制限の代わりにできないか試みた前臨床研究でNature Biotechnologyオンライン版に掲載された。タイトルは「Development of a synthetic live bacterial therapeutic for the human metabolic disease phenylketonuria(フェニルケトン尿症に対する合成バクテリア治療の開発)」だ。

この研究では、ヒトへの投与が可能な大腸菌の系統にフェニルアラニンの分解酵素を組み込んで、腸内に循環してくるフェニルアラニンを分解してしまおうとする作戦だ。ただ、腸内という条件で最大の分解能力示し、しかも工業的生産が容易な菌株を作るのは簡単でない。特に、普通バクテリアの遺伝子操作で使うような抗生物質耐性遺伝子などを使うと、それだけでFDAの認可が下りない。色々苦労はあったと思うが、最終的に外部から積極的にフェニルアラニンを取り込むトランスポーター、フェニルアラニンをTCAに変換するPAL、そして細胞の外でもフェニルアラニンをフェニルピルビン酸に変えるLAADを導入し、体内では嫌気条件でこれらが発現し、試験管内で増殖させるときには分解系が働かずに大量に増殖できる細胞株SYNB1618を開発した。

結果は予想通りで、フェニルアラニンを分解しTCAに変えた後、尿でhippuric acidとして排出され、血中のフェニルアラニンを低下させる効果がマウスモデルと、サルで確認されている。

ただ私が不勉強で全く知らなかったのだが、この分解は食物からできたてのフェニルアラニンに限らない。皮下に投与されたアイソトープラベルしたフェニルアラニンも腸内の細菌により分解され、尿にhippuric acidとして排出される。すなわち、腸と血液の間でアミノ酸の循環が起こっており、フェニルアラニンが一定期間腸内に貯蔵され、これが分解の対象になるという素晴らしい話だ。

もちろん制限食から完全に開放されるまでには時間がかかる難と思うが、生活の質はかなり高まるはずだ。嬉しいことに、現在安全性を確かめる第1相の治験も始まっているようだ。このように私達が学生時代に習ったまま標準治療も確立していた病気についても、生活の質を高めるための治療法開発が続いている事に感心した。期待したい。

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