AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 9月19日 医療の対象としての老化(9月17日米国医師会雑誌掲載に掲載された3編の意見論文)

9月19日 医療の対象としての老化(9月17日米国医師会雑誌掲載に掲載された3編の意見論文)

2018年9月19日
SNSシェア
米国では何が医療の対象かを新しく決めていくため、常に医療界の意見の集約が図られている。勿論一般的な病気ではそんな必要は無いが、実際に病気と健康状態の境界にあるような病気の場合は、一般の人や保険会社を説得するための様々な広報努力が行われる。この中で医療の対象としてのメタボリックシンドロームや慢性炎症といった概念が出来上がっていったように思う。

そして今最も重視されているのが、老化を医療の対象として認め、介入するかどうかで、この方向での合意に向けた意見調整が現在行われていることを伺わせる3編の意見論文が、米国医師会雑誌に掲載されたので紹介する。掲載されている順番は無視して、全体像がわかりやすいように私の方で順番を勝手に調整して紹介する。

最初の論文は疫学、医療統計の専門家Olshanskyの視点で、タイトルは「From Lifespan to Healthspan(寿命から健康寿命)」だ。

著者は、寿命の限界を現在のコンセンサス115歳から先に伸ばすのは困難と考えているようで、当分の間は現在レッドゾーンと呼ばれている80歳から90歳での死亡率の上昇を、横にシフトさせていく努力が重要と考えている。

結局医療統計学で競合リスクと呼ばれるさまざまな老化に伴う病気をどう抑制するかが今後の課題で、これによる健康寿命の延長を目指すべきだとしている。そしてこのために、専門家会議が形成され、この健康寿命延長のための臨床研究について議論が始まり、FDAもそのための助成を2019年から増やす方向で進んでいる。以上、当たり前だが着々と体制を整えているのがよくわかる。なるほど米国と感じ入ったのは、この取り組みの先行例としてGoogleがすでにGoogle Calico Human Longevity Incという会社を設立してさまざまな老化研究を推進していることで、IT企業が続々と健康についての研究を助成している米国の力を感じる。

2番目の論文はアルバート・アインシュタイン研究所とアラバマ大学の3人の研究者による論文でタイトルは「Aging as a Biological Target for Prevention and Therapy(老化は介入や治療の標的になる生物学過程)」だ。

最初の論文での疫学的視点を、医療の立場で考えてみたという意見が述べられている。

まず、老化では様々な生命過程が絡み合っているため、一つ一つの過程を見てしまうと、一つの病気として診断されるが、実は総合的な状態である点に注目している。すなわち、老化を治療することで、一人の老人がいくつも抱える慢性病の大きな原因を断つことができる可能性があることを示唆している。また、医学研究としては、老化状態の生物学的解析が進んで、いくつかの前臨床介入研究が進み、NIHも老化介入プログラムを形成して様々な薬剤のマウス寿命への効果を系統的に調べ始め、すでに26種類の薬剤を候補としてリストしている。これは、これまでの老化予防ではなく、老化マウスの治療研究である点で重要だ。特に、老化細胞を除去するsenolytic分野で、ダサチニブのような特異性の低いキナーゼ阻害剤についての研究が進んでいることを挙げている。

そして、実際に人間での投与が進んでいる薬剤として、糖代謝を標的とするアカルボースやメトフォルミン、あるいは免疫機能に対するラパマイシンなどが今後治療薬として検討されることを述べている。

そして最後の論文はメイヨークリニックの2人の研究者による、より基礎医学的視点からの論文でタイトルは「Aging, Cell Senescence, and Chronic Disease Emerging Therapeutic Strategies (老化、細胞老化、慢性病:新しい治療戦略)」だ。

この研究でも、多くの慢性疾患の最大の原因が老化であると認識して、慢性病の治療として老化治療があることをまず強調している。その上で、老化原因を、⑴低いレベルの慢性炎症、⑵細胞内ストレス:タンパク質の沈殿やオルガネラのストレス、⑶幹細胞の機能不全、⑷細胞老化、の4種類の過程として研究が進んでいることを紹介している。 特に重要分野として著者らがあげるのが、老化細胞から分泌されて、若い細胞の機能を傷害する分子の研究で、このような分子が存在することは老化細胞を除去することで、寿命が延びるという現象から明らかにされている。これに対し、一つは分泌因子の本態を明らかにすることだが、それより先に老化した細胞を除去するための様々な取り組みが進められており、特に非特異的キナーゼ阻害剤ダサチニブとフラボノイドの組み合わせが期待されていることを紹介している。すなわち、これまでの老化防止はカロリー制限や、運動など老化細胞の発生を落とす方向で考えられてきたのを、老化後治療として行う方向性だ。

その上で、現在進行中のFDAによる臨床試験の結果、老化細胞除去療法が有効と判断された時点で、医師処方の治療薬としてだけでなく、市販薬として開放煤のかの議論が進むと結んでいる。

この3編の論文から見えるのは、老化を医療の対象として治療するとする米国医学界の考え方で、かなり具体的薬剤リストも挙がってきている。一見当たり前の話だが、本当は大きな転換点に来ていることを示している。言ってみればテレビに溢れる老化防止の様々なサプリや食品を排除して、医療が老化治療に乗り出すということなので、わが国でもそろそろ議論を始めるべきだと思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.