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9月30日 オキシトシン受容体刺激剤の開発(Journal of Medical Chemistryオンライン発表論文)

2018年9月30日
自閉症スペクトラム(ASD)の最も重要な症状は、社会性の障害、言葉の発達障害、そして繰り返し行動だが、これらは全て社会性の障害を起点に説明できると個人的には思っている(あくまでも私見として聞いてください)。というのも、言語の発達には、他人とのコミュニケーションを求める積極的な気持ちが必要で、社会性が障害されると、当然言語の発達は遅れる。また社会を避けて自分を守ろうと、反復行動を示すのではないだろうか。実際、社会性ではASDの正反対と言えるあまりにも無警戒に他人と関係を持とうとするウイリアムズ症候群の児童は、知能の発達は遅れていても、言語発達は目をみはる。このように、ASD治療の重点は社会性の回復であるとして、これまで愛情ホルモンと呼ばれ、人間の社会性を高めることができるオキシトシンが自閉症の薬剤として期待されている。事実我が国から100名を越すASDに対するオキシトシン経鼻スプレーの効果を調べた論文がすでに発表されており、プラセボ群と有効な違いが得られないという残念な結果に終わっています。ただ、反復行動や、相手の目を見る時間については改善が見られたので、ある程度の効果は認められることも間違いなく、今後更なる研究が必要と結論している(Yamasue et al Molecular Psychiatry :https://doi.org/10.1038/s41380-018-0097-2 2018)。 ただ、これらの研究の最大の問題は、脳に近い経鼻ルートでオキシトシンを投与したとして、どれほど脳に移行するのかよくわかっていないことで、本当はもっと効果があるのに、脳内への移行の問題で高い効果には至らないのかもしれない。オキシトシンは、8つのアミノ酸が結合して作る複雑な構造をしており、視床下部で合成される脳内で効果を示す神経ホルモンで、脳血管関門を簡単に通過するようには見えない。確かにこれまでの多くの研究で脳外からの投与でも効果があるようなので、一定量が脳に到達しているとは思うが、脳への移行がはっきりしない段階では、一般治療へと発展することは難しいと思う。

今日紹介するフランスストラスブール大学からの論文は、まさにこの問題を解決しようと、オキシトシンと同じ作用を持つ、ペプチドとは違う化合物を開発した研究でJournal of Medical Chemistryに掲載された。タイトルは「LIT-001, the First Nonpeptide Oxytocin Receptor Agonist that Improves Social Interaction in a Mouse Model of Autism (世界初のペプチドとは異なるオキシトシン受容体刺激剤LIT-0001はマウスの自閉症モデルで社会性を改善する)」だ。

この研究では、オキシトシン受容体がバソプレシン受容体と構造的に似ていることに注目し、これらの受容体に結合できる化学構造としてのベンゾイル・ベンズアゼピンを骨格とする化合物から始めて、様々な合成を繰り返し、バソプレシン受容体、オキシトシン受容体を発現させた細胞でのシグナル伝達を指標に検討を繰り返し、最終的に化合物57、LIT-0001を合成している。

開発に興味ある人にとっては、合成有機化学としてのLOT-0001までの試行過程が最も面白いのだと思う。また、この薬剤を起点にさらに磨きをかける場合も、これに至るまでの過程は大きな情報と言える。」しかし、私たち合成化学についての素人にとっては、最後に示される化合物の性質が最も重要で、それだけを紹介する。

まず3種類のバソプレシン受容体、およびオキシトシン受容体をそれぞれ発現した細胞を用い、これら受容体のシグナル伝達経路、カルシウム遊離やβアレスチンの受容体へのリクルートを指標にLIT0001を調べると、オキシトシン受容体への作用はオキシトシンと比べて1オーダー低いが、特異性はLT-0001の方が優れていることがわかった、

その上で、オピオイド受容体が欠損することで社会性が失われるモデルマウスに投与すると、10mg/kgで社会性を回復させられることがわかった。

この結果から、全身投与で、脳のオキシトシン受容体を効果的に刺激してくれる薬剤の開発への道が開いたことは明らかで、これまでのオキシトシンの効果を考えると、ぜひ早期にさらなる至適化が行われ、治験が行われる事を期待する。欧米ではASDは60−70人に一人発症すると言われており、医療だけでなく、ビジネスとしても大ヒットにつながる可能性を秘めている。

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