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10月25日:胎児期にマラリア抗原に暴露されるとトレランスではなく免疫が成立する:常識は疑え(10月17日: Science Translational Research掲載論文)

2018年10月25日
学生時代、免疫現象で最も感銘を受けたのが免疫トレランスと呼ばれる現象で、中でも新生児期に皮膚移植をすると、他人の皮膚片に対する免疫が成立せず拒絶が起こらないないという、メダワーたちの実験だった。私が習ったときは、これらは全て成熟前のT細胞が抗原に出会うと、反応する代わりに、細胞死に陥るからだとされていた。その後、調節性T細胞が坂口さんたちによって示されると、新生児期に抑制性T細胞が誘導されることも免疫寛容に寄与すると考えらるようになった。いずれにせよ、胎児期や新生児期に抗原に触れさせると特定の抗原に対する反応は長期に抑制されるというのが常識だった。

しかし最近になって、人間のT細胞反応の場合、ウイルスによっては胎児期に母親を通して抗原に触れると、寛容ではなく免疫が成立するという、常識を覆す発表が見られるようになってきた。今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、マラリアに対してもT細胞性免疫反応が胎児期に成立することを、マラリアの蔓延しているウガンダの妊婦さんとその子供で調べた研究で10月17日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「In utero priming of highly functional effector T cell responses to human malaria (マラリアに対する高い反応性を示すエフェクターT細胞を子宮内で誘導する)」だ。

この研究は妊娠中のマラリア排除のため、アルテミシン間歇療法の治験にリクルートされた妊婦さんの胎盤が出産時にもマラリアに感染しているかどうかで層別化し、その時の胎児臍帯血のT細胞の反応を調べて、マラリアに対する免疫が成立しているかどうかを調べている。

最初は、感染の強い母親から生まれた子供では、臍帯血に分裂中の記憶T細胞が増加していることを確認した後、マラリア抗原抽出液に対する試験管内反応で、CD4,CD8共に上昇していることを見出す。すなわち、マラリア抗原に対しては、胎児期にトレランスにならず十分免疫が成立することが明らかになった。さらに、これがマラリア抗原由来ペプチドに対する反応であることを、表面に発現されるMSP-1タンパク質配列に合わしてペプチドを合成し、それを用いたT細胞刺激実験で、反応するのを確かめている。また、MHCに対する抗体を用いて、これらのT細胞がMHC+ペプチドを認識していることも確かめている。

さらに重要なのは、このような免疫方法では抑制性T細胞が全く誘導できない事で、トレランスにならないのは、抑制性T細胞が誘導できないからという可能性も示している。

そして最後は、こうして誘導されたT細胞が本当にマラリア感染を防ぐことが出来るかだが、臍帯血中のCD4T細胞がマラリア抽出液に強く反応した子供は、マラリアへの感染確率が、反応の低い子供の半分以下に低下し、また2年以内にマラリア抗原が検出される率はなんと3分の1に低下している。すなわち、母親からのマラリアに対して免疫反応が成立すると、生まれた後もマラリアにかかりにくいことが証明された。

以上の結果は、現在進められている妊娠中のマラリア駆除で子供を守るというプロジェクトに対しては、再検討が必要であることを示すとともに、これまでことごとくうまく行っていないマラリアワクチンも、胎児期に打つという可能性を追求する価値があることを示唆している。もちろん、どのような形態のワクチンが必要かなどさらに検討が必要だが、、胎児への免疫はトレランスを誘導するというこれまでのドグマは疑ってかかったほうがいいように思う。

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