この本から分かるように、ほかの個体の行動をコピーする能力は、脳を持つ動物の進化に大きく寄与してきた。実際、模倣のための特殊な脳回路が存在し、それが永続的な行動の脳回路に変換していることがよくわかるのが、鳥類のsong learningだ。天安門事件以前、朝、北京の公園にはお年寄りが集まり、大事に育てた鳥の歌比べをしていたのを覚えている。今はもうそんなのどかな風景は消えてしまった、というより北京市内から胡同が消滅してしまったので、こんな経験はできなくなったのではと思う。このお年寄りの趣味は、まさに鳥が模倣することを通して、永続的な鳴き声の回路を形成する過程を利用したものだ。
少し前置きが長くなったが、今日紹介するデューク大学からの論文はダーウィンの種の起源で有名になったフィンチが1ヶ月齢時期に泣き方を覚えるプロセスの脳回路を明らかにした論文でNatureオンライン版に掲載された。筆頭著者は現在東北大学で研究している田中さんという研究者だ。
この研究では、フィンチが歌を覚えるとき、生きたたフィンチが歌っているのを教師と認めて音を聞いた時だけ、歌の回路を形成できるメカニズムを脳回路的に研究している。このため、他の個体の声だけには反応せず、歌うオスを教師として認識しながら音を聞いたときだけに反応する回路を抜き出すところから始めている。と言っても、すでに研究の積み重ねがあり、この回路が中脳水道周囲(PAG)にあるドーパミン神経と、それが投射する鳥のさえずり中枢HVCとの間の回路にあるという答えがあり、この仮説を検証するという形で研究を進めている。
実際オスが泣いているのを見/聞いた時だけPAGが興奮することをまず確認して、次に、実際この刺激がドーパミンの分泌が高まることで起こることを、HVC神経がドーパミンと結合すると蛍光を発するように遺伝子改変して確認している。
次にこの神経興奮パターンが、確かに歌う回路形成に関わることを調べる目的で、歌を習うときにドーパミン分泌神経繊維を障害する化学物質による処理を行い、この回路がsong learning時に抑制されると、歌の回路が形成されないこと、また逆にこの回路を光遺伝学的に刺激することで、今度は教師になる鳥を見ないときでもある程度の歌の回路が成立することを示している。
最後に、先生に習うことがどのような神経科学的効果があるのかを調べ、習っったことがより強固に自己の脳活動に同化されている事が示されている。
かなり単純化してまとめたが、メッセージは上の通りだと思う。習うべきか、聞き流せばいいのか、この決断を決める回路がはっきりした。今後は、この回路に何がインプットされるのかなど芋ずる式の研究が進むと思う。同時に、ドーパミン神経であることからも、同じような回路が模倣する哺乳動物でも認められると思う。面白い、いい研究だと思う。そして、モデル動物でないフィンチでも、これだけの神経操作手法が使えることを知って、感心した。