同じようなじっとしている時の時間をマウスはカウントすることができるのか、もしできるとしたらその回路はどんな特性を持っているのかを研究した論文がNorthwestern 大学の神経生物学部門からNature Neuroscienceに報告された。タイトルは「Evidence for a subcircuit in medial entorhinal cortex representing elapsed time during immobility (動かないでじっとしているときに経過する時間を表象する内側嗅内野の下部回路が存在する証拠)」だ。
人間でも、例えば黙祷を捧げている時、時間をカウントしようとすると、「一、二、三、四」と頭の中で実際の数をカウントするのが普通だ。マウスも、本当にそんな芸当ができるのだろうか。この研究では、マウスを自分の足で回すことができる踏み車の上にのせ、前には3面スクリーンで周りの景色を変化さセル装置を用いて、直線で門の前まで走ってから、6秒待って、門が開くときすぐに中に入って進むと餌にありつけるというバーチャルな課題を作り、この課題を行わせながら、内側嗅内野に蛍光センサーを設置して、領域内の神経細胞の活動を記録している。
この研究のミソは、門の前まで来た後、止まって正確に6秒数えて走り出した時だけ門の中に入って餌にありつけるようにして、じっとして6秒カウントする行動が取れるよう訓練している点だ。これにより、体の動きや場所の認識とは全く別に、時間だけをカウントする神経回路があるかどうか調べることができる。この課題では、もちろん目から景色の変化や、門の開け閉めがインプットされるようになっており、当然場所に反応する神経も記録される。
まず驚くのは、訓練すればマウスでも6秒を正確に数えることが50%以上の確率でできるようになる。すなわち、時間をカウントすることができる。そしてこの時活動する神経細胞を調べてみると、じっとして時間をカウントする時にだけ興奮する細胞が確かに存在する。すなわち、場所とは無関係に時間のカウントを行う神経回路が存在する。
これら時間カウント細胞の興奮を記録すると、驚くことに、時間の経過に合わせて、異なる神経細胞が順番に興奮することで6秒という時間を計っていることがわかった。言い換えると、6秒の間に細胞の興奮がリレーのように伝わることで時間が図られていることがわかった。そして、この時間の経過を表象する細胞群はこの領域内でも互いに近接してサーキットを作っている。この発見が、この研究のハイライトだ。
あとは、カウントが短すぎたり、長すぎたりした失敗時の神経活動を調べ直し、細胞間の連携の正確さが時間カウントの正確さを決めていることを明らかにする。また課題自体は同じだが、目に入る景色をまるっきり違う景色にスウィッチして、時間のカウントに関わる同じ細胞が、新しい課題に対しても、最初から同じように使われていることも明らかにしている。
結果は以上で、ともかく時間の経過とともに、違う神経があたかも興奮をリレーしているように(実際にはそうだと思うが)、順々に興奮している図を見せられるとそれだけで納得する研究だ。もちろん、まだまだ現象論にとどまっていることは間違いない。今後ぜひ、このリレー回路のメカニズムと、それがどのように行動の命令へと統合されるのかなど、明らかにして欲しいと思う。モザーさんの実験も考えると、様々な時間が私たちの脳の回路として維持されているのがわかる。概日周期並みの大きな研究領域に発展する気がする。
(実験目的は端折りますが)サルを座らせておきたくて、30秒毎のLEDのON/OFF連動でジュースを飲ます実験をしたことがあります。その時、片付けのLEDが消えている間も、ほぼ正確に30秒毎のリッキングが4−5回続き、驚いたことがあります(数日連続して)・・その後、30+/-5のquasirandomにしてその状況を回避しました。サルの視覚野はヒト以上に発達している、という話がありますが、嗅内皮質付近がこの報告で取り上げられているのは「ナルホド」です。
貴重なご意見ありがとうございます。