著者には申し訳ないが今日紹介するフランスのGustave Roussyガンセンターとイスラエル テルアビブ大学からの論文は、私にとっては肝心の最後がよくわからないという典型の論文になってしまった。タイトルは「UV protection timer controls linkage between stress and pigmentation skin protection systems (紫外線から皮膚を守るタイマーが皮膚の防御システムのストレスと色素沈着の連携をコントロールする)」だ。
この研究が対象とした現象は全く初耳だったし、面白い。マウスでも人間でも、紫外線照射を毎日1回、2日に一回、3日に一回、の頻度で照射し60日目に組織を調べると、なんと毎日照射した時より、2日に一回照射した方が色素沈着が強くなるという現象だ。そして、これは培養したメラノーマ細胞レベルでも再現できる。
こんなことがあるなど想像だにしなかったし、とても面白い現象だ。この謎を解くというのがこの論文の目的だ。細胞レベルの性質として特定できたので、謎は解けるかと最初は期待した。要するに、色素細胞の活性を調節する様々な分子の発現を異なる照射条件で比べれば解けるはずだ。
この研究では、1日一回と、2日に一回で、色素細胞の発生と活性を調節しているマスター分子MITFの発現のパターンが異なることを示している。
1) まず、UV照射(試験管内ではcAMPによる刺激で代えている)後、MITFの発現は外界の刺激とは全く無関係で周期的に変化する。
2) ただ、上がり下がりを繰り返しながらも発現はだいたい48時間で元のレベルに戻る。しかし、24時間目にもう一度照射すると、新しい周期が始まる。
3) MITFは短い間隔の周期で振動する他、その下流の遺伝子は、この細かい周期にはあまり影響されない分子が多い。
4) MITFの周期は、それを制御するHIF1やMir-148の周期的発現の結果としてほぼモデル化できる。
5) また、この2種類の分子をノックアウトすることで、MITFの周期を変化させ、その結果24時間、48時間照射による色素沈着の差も消失する。
などが結果だ。要するに、UV照射後のMITFは、短い周期と長い周期で変化し、長い周期で見ると48時間で元のレベルに戻るが、24時間目にもう一度照射すると、長い周期が24時間に変わる。一方、短い周期はそのまま維持されると考えていいだろう。
一見うまく説明できたように見えるが、ではなぜ48時間という長い周期の方が、色素の沈着が高まるのかについては、結局説明できていない。色素合成の阻害分子も含め、やはりもう少し精度の高い研究が必要だろうと思う。また、せっかく発見した、MITFの短い周期の振動の意味も明らかにされていない。そして、色素沈着は60日目で見ているのなら、MITFの発現変化も、60日間調べて欲しい気がした。その意味で、現象は面白いのに、フラストレーションの残る仕事だったと言わざるを得ない。
とはいえ、日焼けサロンのプロトコルは、48時間サイクルに変えた方が良いことは間違いない。