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7月17日毎日他:バルサルタン:臨床試験疑惑 降圧剤不正、京都府立医大謝罪 誰が 操作「特定できず」 後ろ向き答弁終始

2013年8月8日
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毎日新聞を取り上げているが、各紙で報道された。毎日新聞は元の記事のペーストを許していません。必要な場合は以下のURL参照。 http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130712-OYT1T00708.htm

松原事件について一言。 京都府立大学がヴァルサルタンについての論文捏造についての報告書をまとめたと言うニュースは、日本の各紙だけでなく、7月18日に発行されたScience紙にも報道されている。サイエンスの内容は他の新聞とほとんど変わる事はない。ただ、例えば東大の谷本さんのコメントが載っているなど、研究者も日本のメディアよりは話しやすいのかなと考えてしまった。この記事を書いたNormileはよく知っているが、自分で直接情報をとろうと言う気持ちが前に出た優秀な記者だ。このぐらい熱意があるとつい話してしまうのだろう。   サイエンスを含む各紙も大体同じで、松原さんがNovartisから研究助成金を1.4億円ほど貰っていた事、またアベノミックスでいくら創薬研究の推進がうたわれても国民は信用しない事などが報道されている。    ただ、報告書を精読して問題を理解しようとする記事はあまりなかったように思う。府立医大の報告書はホームページからダウンロードできるようになっているので、今回読んでみた。まず、ひょっとしたらexecutive summaryと勘違いするほど短い。ただ、調査委員が報告書に掲載されていない。調べればわかるのかもしれないが、はっきり掲載すべきではないだろうか。    読んでいくと、今回の事件が極めてお粗末な捏造事件であった事がわかる。また、だからこそこれほど短い報告書で済んだのかもしれない。要旨は、府立医大からの参加者のデータ再調査を行い、複合イベントの頻度が意図的に捏造されていたので、これはデータ取得段階でなく、データ集計時に捏造(あるいは間違い)されたと結論している。この結果、この捏造は最後の集計に関わった研究員の責任で、トライアル全体の問題ではないとしている。勿論捏造があったかどうかについてはこれで良いかもしれない。一つでも捏造が証明されればそれで良い。しかし、この報告書にはまだまだ注目すべき幾つかの問題がある。 まず第一に、European Heart Journal論文にはこの研究が府立医大の研究費で行われた事が書いてある.。しかし、この点について全く言及がない。研究にはお金がかかる。特に患者さんをリクルートする臨床研究となると普通大きな費用がかかる。どのぐらいのお金がかかり、それが各機関にどのように渡り、どのように使われたのか葉重要な点だ。府医大がスポンサーである事が明示されている限り、この点をはっきりさせるべきだ。  第二に、合同調査委員会ではデータの流れが把握できなかったと書かれている事だ。この流れが把握できない事は臨床研究全体について全く把握できていない事だ。これは極めて重大な点で、府医大の将来を考えると更にこの流れについて明らかにする事を約束すべきだろう。 最後に、府立医大からの登録例が310例あるにもかかわらず、カルテ調査が223例しか出来なかった事だ。同じ大学でカルテの調査が出来ないと言う事はほとんど考えられない。はっきりした理由を示すべきだろう。 最後に捏造一般に対する提案だが、第三者機関の調査以外に、共同研究者として論文に名を連ねた研究者が、自らの手で問題を明らかにしようとする動きがあっていいのではないだろうか。誰かに罪をかぶせるだけでは何も終わらない。この様な捏造は、個人だけの問題ではなく、捏造を期待する学会社会が背景にある事を肝に銘じるべきだ。例えば、スティーブングールドのパンダの親指や、韓国の優れたジャーナリスト李成柱の「国家を騙した科学者」はこの事を鋭く指摘している本だ。我が国の成長戦略が、捏造の背景にならないよう、これらの本を読み直すときかもしれない。

  1. 町野 朔 より:

    ありがとうございました。CITI Japanと学術会議・文科省の教科書に関係してから、前より西川さんのおっしゃることが理解できるようになりました。

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