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3月29日 アルツハイマー病に関する驚くべき新説(Nature Medicineオンライン掲載論文)

2019年3月29日

今年に入ってから、すでに5回もアルツハイマー病に関する研究を紹介している。特に重点を置いているわけではない。要するに面白い論文が多い。この5編をざっと眺めなおしてみると、今後再現性を確認するという作業は必要だとしても、全て極めて新鮮な切り口の仕事であることがわかる。これらの論文は、アルツハイマー病の研究が現在極めて活発であることを示すとともに、この病気についてはまだまだわかっていないことが多く、Tauやアミロイドβで話を終わらせてしまうことの愚を戒めていると思う。

そしてまたスペインマドリードのオチョア分子生物学研究所から、極めて単純な免疫組織学的研究を用いてアッと言わせる研究がNature Medicineに発表された。タイトルは「Adult hippocampal neurogenesis is abundant in neurologically healthy subjects and drops sharply in patients with Alzheimer’s disease (多くの新しい神経細胞が正常人の大人の海馬で生成されているが、アルツハイマー病では急激にこの生成が低下する)」だ。

この研究の目的は、アルツハイマー病ではなく、成人の脳でも新たな神経が作られているかどうかを組織学的に確かめることだ。これまで、大気中の放射能を用いた仕事で、神経新生が大人になると起こらなくなるという考えは、必ずしも真実ではないと考えられるようになったが、より簡便な方法で研究できないと、どちらが正しいのか結論が難しかった。

この研究では神経生成のマーカーとしてのdoublecortin(DCX)陽性細胞が43-87才の人間の海馬にも存在するか調べている。なぜこんな簡単な研究が行われなかったのだろうと思ってしまうが、DCXは微小管と結合する分子であるため、固定の条件を極めて厳格にしないと検出できなくなるためで、この点を改良したことがこの研究のすべてと言えるだろう。

この結果、海馬の歯状回でだけDCX細胞が存在し、この細胞から派生したと考えられる分化細胞が順番に存在していることを様々な分化マーカーを組み合わせて確認している。すなわち、歯状回ではほぼ一生に渡って神経の新生と分化が進んでいる可能性が強く示唆された。

そこで最後に、では海馬が病変の中心であるアルツハイマー病ではこの神経の新生はどうなっているのか、同じ方法で確かめている。するとDCX陽性細胞は病気の初期から著しい低下が見られ、また、年齢とは無関係に病期に応じて低下していることを発見する。さらに分化マーカーを用いた研究から、神経細胞分化に伴う成熟過程がより強く抑制されていることが示され、DCX細胞の増殖はあっても、脳回路に統合できなくなっていることを示唆している。

私が知る限り、これまでアルツハイマー病は、分化を終えた神経細胞の変性として捉えるのが普通だった。今回の研究で、全く新しい視点、すなわち記憶に関わる海馬での神経新生の異常が示されたことで、新しい展開が可能な気がする。

私はすでに70歳だが、現役時代より論文や本を読む時間が増えて、日常生活での物忘れはかなり重症だが、必要なことは結構覚えられることを実感している。さらにコンピュータによりこのような記憶が補完できているので、より脳の働きが増したように感じている。その意味で、80歳を超えても海馬の神経新生が活発であることを示したこの研究は納得できる。

スペインは神経は再生しないと考えたカハールの出身地だが、同じスペインから、研ぎ澄ました組織学で新しい概念が提案されたのは、感慨が深い。と言っても、そのまま信じられるかどうかは、今後の研究が必要だろう。


  1. Okazaki Yoshihisa より:

    海馬の歯状回でだけDCX細胞が存在し、この細胞から派生したと考えられる分化細胞が順番に存在していること確認。

    歯状回ではほぼ一生に渡って神経の新生と分化が進んでいる可能性が強く示唆された。

    人間の中枢神経系、一生に渡って再生してるとは。。
    AD、新薬開発が難渋している疾患なので突破口になって欲しいです。
    本当、常識とは不思議で恐ろしいです。

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