この1週間、変わり種の論文を紹介してきた気がする。
「スマフォによる糖尿病診断」、「ミトコンドリアによる神経運命決定」、「セラミドによる線維化の抑制」、「高齢者の血液によるガンの悪性化」、そしてTcRレパートリーからのガン診断」などだが、意表をつく論文に目が行きやすいこともあるが、この週は特にこの類の論文が目立った気がする。実際には、まだ紹介しきれていない論文が二編残っている。
今日紹介するハーバード大学からの論文はそのうちの一編で、本当かな、論文のための論文と違うかな、などと感じるところもあったが、学ぶところも多かった。タイトルは「Decidual NK Cells Transfer Granulysin to Selectively Kill Bacteria in Trophoblasts (脱落膜に存在するNK細胞はグラニュロリジンを受け渡すことで栄養膜細胞内のバクテリアを殺す)」だ。
意外とマウスと人は進化的に近く、胎盤の構造も似ており、母親側の子宮に形成される脱落膜の中に、胎児側の絨毛から絨毛外栄養幕細胞が突き刺さった構造ができている。子宮は一種体外組織と言ってよく、当然細菌感染に晒される確率は高い。
この研究では、細菌を殺す活性を持つグラニュロリジンの発現が、脱落膜に存在するNK 細胞で高いこと、そしてパーフォリンヤグランザイムが存在する細胞障害性の顆粒だけでなく、細胞質にも存在するという発見から始まっている。
この結果から、おそらく脱落膜ではNK細胞がグラニュロリジンを介して細菌感染を防御しているのではと考え、栄養膜細胞株にリステリア菌を感染させる実験で、NK細胞がリステリアを殺せるか試験管内で調べている。結果は期待通りで、細胞外のリステリアも、細胞内のリステリアもNK細胞により殺されることがわかった。重要なことは、リステリアへの障害性には、NK細胞のキラーメカニズムである脱顆粒は必要ないこと、また細胞内のリステリアは殺されても、栄養膜細胞自体は障害を受けないことを確認している。これが、この研究のハイライトで、このメカニズムを追求した結果、
- 脱落膜に存在するNK細胞(dNK)は末梢のNK(pNK)より高いグラニュロリジンを発現しており、リステリア殺傷効果が高い。
- dNK細胞は栄養膜細胞と接触すると、おそらくNK細胞受容体を用いて細胞質同士が繋がるブリッジを形成するが、それ自体は栄養膜細胞障害性はない。
- このブリッジを通して、小さな分子はNK細胞から栄養膜細胞へと受け渡されるが、グラニュロリジンもこのメカニズムを介して栄養膜細胞へと移行し、細胞内のリステリアを殺傷する。
- このブリッジ形成にはアクチンが関わる。
- マウス妊娠子宮にリステリアを感染させる実験で、グラニュロリジンを過剰発現したマウスは流産率が低下する。NK細胞を除去すると、この効果はなくなる。
以上、NK細胞が妊娠中の感染を防ぐ重要な役割をしているという結果だ。一般的に実験動物は清潔に維持されているので、このような差はなかなか気づかれないのだが、おそらく野生では重要ではないかと納得している。
ブリッジを通して、小さな分子はNK細胞から栄養膜細胞へと受け渡され、
グラニュロリジンもこのメカニズムを介して栄養膜細胞へと移行できる?!
Imp:
一種の“母体―胎児間コミュニケーション”!?
エクソソーム、今日のお話しなど、
タブー視されている“ラマルク遺伝”の可能性を妄想するのですが。。