ホモサピエンス進化研究では今アフリカが熱い。まず、アフリカがホモサピエンス誕生の場所だ。他の人類と系統的に別れてからも、同時に存在した他の人類と様々な関係が続いたはずで、アフリカを出るまでに何が起こったのか?これについては、まだ時間は未定だが次回のジャーナルクラブで取り上げたいと思っている。
これと並行して、言語誕生に至るホモサピエンスのsymbolic 能力形成過程の研究も熱を帯びてきた。サハラ砂漠より南のアフリカでは、ユーラシアでの人類史が始まるずっと以前に、symbolic能力の形成が進んできたことが、石器や装飾品からわかっている。例えば2018年3月に紹介したように、ケニアのOlogesailieの遺跡には、ホモサピエンスがすでに30万年前には、ユーラシアのネアンデルタール人では成し遂げられなかった優れた石器を完成させており、しかもこの石器を50kmも離れた場所から出土する黒曜石を使って生産していたことが明らかになっている(https://aasj.jp/news/watch/8185)。
このような高いsymbolic 能力を示す遺跡が南アフリカから東アフリカにかけての沿岸でいくつも見つかり、ホモサピエンスの形成がアフリカ中で独立して、あるいは関係しあって進んだことがわかってきたが、これらの遺跡はビクトリア湖沿岸のKatanda(魚釣りの証拠が残っている)を除くと、沿岸部に限定されてきた。この結果、アフリカでのホモサピエンスの形成は沿岸で起こったとさえ提案されている。
今日紹介するオーストラリア・グリフィス大学からの論文は、、南アフリカ内陸部のGa-Mohana Hillでも、これまで発見されたことのないタイプのsymbolic 能力を示す遺物を発見したという研究で3月31日Natureにオンライン発表された。タイトルは「Innovative Homo sapiens behaviours 105,000 years ago in a wetter Kalahari(現在より雨の多かった105000年前のカラハリ盆地で見られるホモサピエンスの革新的行動)」だ。
この研究では南アフリカの北部中央、ボツワナとの国境近くのGa-Mohana高地の約10万年前の地層から発見された遺物について解析している。おそらく、アフリカの他の遺跡と同じで、人骨は発見されていないのかもしれない。ただ、中石器時代の進んだ石器が出土しており、またsymbolic能力を伺わせる、絵を書くのに使われる赤色オーカー顔料も発見されており、ホモサピエンスの遺跡であると断定している。
道具として面白いのは、水を入れるのに使ったと思われる、熱処理されたダチョウの卵も見つかっており、高い構想力を備える人類の遺跡と考えられる。
今回最も注目されたのが、同じ地層から、きれいに整形された22個の方解石の結晶が発見された点で、こちらの方は日常の道具として利用されたとは思えない。そして、より高いsymbolic能力の一つと言える、何らかの儀式に使用されたのではないかと結論している(出土した装飾品はNature誌参照: https://www.nature.com/articles/s41586-021-03419-0/figures/1 )
確かに示された写真は人の手が入ったとしか考えられないが、勾玉のようなより高度な細工がしているわけではない。そのため、実際に人間により造形されたものであることを証明することが最も重要な問題になる。実際、この論文の大半は、この点についての議論に終始しているが、全て割愛する。
少し脱線するが、以前英国の自然史博物館を見学した時、物理的作用による造詣と、生物の造形とをどう区別するかについて詳しく展示されているのに感心した(図1)。これは、化石の生成について、18世期キリスト教会で行われた説明が、科学的に否定されていく歴史に関わるが、このように「誰が作ったのか」の造形の科学の重要性が、この研究からわかる。
人間の手による造形だとすると、これまで全く発見されたことのないタイプで、何に使用されたのか、興味がわく。
アフリカは今も多くの言語が残っており、原始的な儀式も保存されている。もし今回の装飾品が精神的な儀式に使われたものだとすると、アフリカに今でも残る様々な儀式と関係づけられる可能性すらある(素人考えだが)。新しい文化人類学が始まるのかもしれない。
南アフリカ内陸部のGa-Mohana Hillでも、これまで発見されたことのないタイプのsymbolic 能力を示す遺物を発見したという研究
Imp:
内陸部にも人類文明発祥の痕跡が。。。