先日紹介した Jeffery Gordon さんの研究もそうだが(https://aasj.jp/news/watch/20041)、最近体内の代謝物の変化を調べて、生体活性のある代謝物を探索した論文を見る機会が増えた。分析方法が着実に進んでいることを物語っている。そこで今日は、最近Natureにオンライン掲載された活性代謝物探索に関わる2つの論文を紹介する。
1つ目の論文はロンドン Imperial College からの論文で intermittent fasting(IF)の効果を調べる過程で Indole-3-propionic acid(IPA) が末梢神経再生に関わることを示した論文だ。
日本でも様々な時間間隔で間欠的に断食を行う Intermittent fasting(IF) が注目されているが、この研究では alternate day fasting と呼ばれる一日おきに食事を抜くIFの座骨神経再生への効果を確かめるところから始めている。結果だが、IF がここまで効くかと思うほど、効果は大きく、傷害された軸索が IF ではよく伸びる。
面白いことに、神経再生に関わる限り IF の効果は、抗生物質投与により消えるので、細菌叢由来の代謝物の効果であると考えられる。そこで IF により変化する代謝物79種類の中から、抗生物質で分泌が消失するものの中から IPA を突き止めている。
後は、IPA を投与する実験から、
- IPA を投与することで神経再生を誘導できる。
- この効果は、IPA により好中球が神経細胞に集まってきて、おそらくインターフェロンγ を介して再生を助ける。
- 皮膚への末梢神経の分泌も促進する。
などを示している。
2番目のボン大学からの論文は。熱代謝に大きな関わりを持つ褐色脂肪細胞の細胞死を刺激したとき分泌される代謝物の中から、なんとイノシンが脂肪細胞に働いて、UCP1 を誘導して、脂肪を燃やすことを示した論文だ。
高温が続くと、褐色脂肪細胞が死にやすくなることが知られているが、これによって分泌される分子の中で、褐色脂肪細胞の代謝を変化させられる代謝物を探索したのがこの研究だ。
細胞死が誘導された褐色脂肪細胞由来の330代謝物の中で、当然と言えば当然だが3種類のプリン作動性の核酸が上昇するのに着目し、上昇が見られる3種類の核酸の中から、イノシンが褐色脂肪細胞の UCP-1 を誘導する力が強いことを発見する。
全て褐色脂肪細胞の話なので、後はイノシンの合成経路と、作用機序を明らかにすることになる。その結果、
- アポトーシスでの生成が最も著明な ATP から細胞外で ADP、AMP、Adenosine を経て合成される。
- A2A/A2B 受容体を介して cAMP を誘導して UCP-1 を誘導し、代謝を熱へと変換する。
- イノシンの細胞内への虜身に関わる ENT1 の機能を抑制することで、細胞外の有効イノシン濃度を高める。
- イノシン投与によりグルコース代謝を改善し、体重を抑えることが出来る。
- 人間の褐色脂肪組織でも同じようなメカニズムが動いている。
などが明らかになり、代謝改善にイノシンや ENT1 の阻害剤を利用できる可能性を示唆している。
以上、両方の論文を読むと、こんな単純な代謝物が大きな効果を持つことに感心する。ただ、これがそのまま医療として出てくるかは疑問だ。特に食品業界へのインパクトの大きい代謝物は今後も多く発見されるだろう。その安全性と長期の有効性をどう調べていくのか、栄養学の21世紀の重要な課題だと思う。
食品業界へのインパクトの大きい代謝物は今後も多く発見されるだろう。その安全性と長期の有効性をどう調べていくのか、栄養学の21世紀の重要な課題だ
Imp:
Aasjでもレポされている“ケトン食”を連想しました。
ガン免疫治療では重要な視点になりまそうです。
21世紀は栄養学の時代にもなりそうです。