顔が似ている背景には、遺伝的な類似があることは誰もが認めると思う。何百万、何千万レベルのゲノム解読が進んだおかげで、顔の形を形成する遺伝子の研究が急速に進んでいる。例えば、今年4月21日、顔の形と関連する遺伝子多型を調べる復旦大学からの論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/19529)。これは、顔を様々な特徴に因数分解し、その点数と相関する遺伝子多型をリストし、最終的に200近くの多型を見つけるとともに、今度は遺伝子から東アジア人とヨーロッパ人を代表する顔を描くというところまで行っている。
顔の遺伝背景を知るためのもう一つの方法として、瓜二つと言えるほどの顔の似た人のゲノムレベルでの比較が考えられるが、瓜二つというペアを集めるのは簡単ではない。今日紹介するバルセロナ、ホセカレーラス白血病研究所からの研究は、カナダの芸術家 Francois Brunelle が集めて「I’M NOT A LOOK-ALIKE!(http://www.francoisbrunelle.com/webn/e-project.html)」というタイトルで公表している、瓜二つの他人ペアをあたり、協力した32ペアの唾液について、SNP アレー、メチル化 DNA アレー、腸内細菌叢とともに、様々な身体や生活状況についてアンケート調査を行い、顔が似ていることの原因や結果を詳しく調べた研究で、8月23日号の Cell Reports に掲載された。タイトルは「Look-alike humans identified by facial recognition algorithms show genetic similarities(顔認識アルゴリズムで類似が特定された人間は遺伝的にも類似が見られる)」だ。
この研究のハイライトはなんと言っても Francois Brunelle の写真集を使えると着想した点だろう。これはすごいと思う。
ただ、この類似は Francois Brunelle の主観によるので、次に3種類の顔認識ソフトを用いて、類似度を調べ、このフィルターを通った16ペアを、人間の印象でも、機械の分析でも似ていると判断されたペアとして、次の検討に進んでいる。
顔認識レベルの似方で言うと、似た人を探すソフトの場合、一卵性双生児より高い類似と判断される場合があるが、顔の一般的特徴や顔の分類を目的としたアルゴリズムでは、一卵性双生児と一般ペアの大体中間に来る。すなわち、人間の印象を十分反映していると言える。
次に、瓜二つの16ペアを、遺伝子多型から分類すると、驚くことに(予想通り?)9ペアが同じクラスターに集まる。すなわち遺伝的に似ていおり、これを Ultra-alike としている。しかし Ultra-alike ペアでも、一卵性双生児同士と比べると、類似は低く、親戚かどうかを調べる方法では、全く親戚でなないことがはっきりしている。
この互いに似ている同士でシェアされている遺伝子を調べると、19277個の SNP が、共有が見られる SNP としてリストされ、この高い共有はランダムなペアでは見られない。
このような多型の見られる遺伝子は、細胞レベルでは細胞接着に関わる遺伝子が多く集まっており、またこれまで顔形成に関わる遺伝子として特定されている遺伝子も1794種類含まれている。
次に、もう一つ顔が似る原因として考えられる DNA のメチル化を全ゲノムで調べると、残念ながら明確な相関は出てこない(これは唾液内の細胞を使っていることも影響している)。ただ、DNA メチル化は参加者のエピゲネティック年齢とは明確に相関しており、実際 Ultra-alike の人たちは年齢も近く、それを反映してエピゲノム年齢も近いことがわかる。
この研究のもう一つのハイライトは、ゲノムだけでなく、アンケート調査によるさ、参加者の様々な性質、例えば結婚、喫煙、アルコール、ペット飼育、運動、子供や家族などの類似性についての調査で、なんと顔が似ている人は生活スタイルも似ていることを明らかにしている。
一つの写真集から始まった面白い研究だ。
互いに似ている同士でシェアされている遺伝子を調べると、19277SNPが共有が見られるSNPとしてリストされ、この高い共有はランダムなペアでは見られない。
Imp:
ヒトの顔は年齢と共に似ている親戚が変わってきます。
自分の娘の場合:
出産直後は父方の祖母⇒乳児時期は母方の叔父時⇒少女期は母親
発現遺伝子も成長に合わせて変化しているのでしょうか?