誰でも実感しているように、顔は間違いなく遺伝的要因が多い。ということは、私たちが親子をみて似ていると感じる特徴は、遺伝的に説明できる。同じように、日本人と中国人、アジア人とヨーロッパ人を見て私たちが感じる違いも、遺伝的に説明できると期待できる。これを裏返すと、ゲノムから顔の造作の大枠を再構成することは可能であることを意味する。
とすると、顔が一人一人異なることは、顔の形成に関わるゲノム領域に多様性が存在することを意味する。幸い、ゲノムの多様性を定義する一塩基多型(SNP)やその他の変位の多様性に関するデータベースは今も増大し続けている。もし、顔の造作を因数分解して、それぞれの因数が多様性を示すなら、ゲノム多型と相関を調べられるし、この対応が出来ると、ゲノム多型を、造作に関わる因数と相関させ、最終的にゲノムから顔を再構成することは可能なはずだ。
ここで必要なのは、顔の造作を様々な要素に分解して、それぞれの多様性から顔全体の多様性を分析することだが、これも顔認識研究のおかげで大きな進展を遂げている。その結果、ゲノムから顔を再構成するための研究が進んできている。
この代表がペンシルバニア州立大学から昨年1月に発表された論文で、顔の要素の多様性を説明するSNPを203種類特定している。この結果から、顔の造作に関わる遺伝子の多くは、発生やエピジェネティック過程に関わる、発生学者なら納得の遺伝子発現の多様性によること、そしてそれらSNPの関与を顔の要素の各部分と相関させられることが明らかになった(Nature Genetics 53, 45, 2021)。
今日紹介する中国上海の復旦大学からの論文は、ヨーロッパ人で行われた顔要素のゲノム多型解析を東アジア人に拡大し、以前の結果を確認するとともに、東アジア人とヨーロッパ人の基本特徴を持つ顔の再構成にチャレンジした研究で、4月7日 Nature Genetics にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic variants underlying differences in facial morphology in East Asian and European populations(東アジア人とヨーロッパ人の顔の形態の違いに関わる遺伝的多様性)」だ。
著者の中には、2021年の論文にリストされた著者も存在し、手法などはほぼ同じと言える。ただ、東アジア人についての解析を行い、244種類のSNPを見つけたこと、さらに遺伝的多様性と関わる部位から顔の三次元画像を再構成する手法を試している点が新しい。
結果だが、
1)今回発見された244種類のSNPのうち、89種類だけがヨーロッパ人の203種類と重なっている。
2)逆に、残りの155種類は東アジア人特異的、そして2021年論文の114種類はヨーロッパ人特異的で有ることがわかる。
3)この両人種で全く異なるSNPは、基本的にそれぞれの人種でのminor allele frequency (major 以外の多型の頻度)が高い。すなわち、それぞれの人種だけで多様性が拡大している。
4)顔の要素に対応するSNPの多くは、中胚葉、神経堤などの発生やエピジェネティックスなどに関わる遺伝子で、これまでの研究を確認した。
以上が大体の結果だが、この研究では東アジア人とヨーロッパ人で頻度が最も大きく異なるトップ13種類のSNPを選び(鼻の高さや眉の間の距離に関わる遺伝子など)、その平均値から東アジアの顔とヨーロッパの顔を再構成している。示せないのが残念だが、SNPスコアだけから計算される違いを5倍して、より強調すると確かに私たちが持つ東アジア人とヨーロッパ人の差を反映している顔が示されており、納得する。
そして、これらの顔も、例えばヨーロッパでは鼻の高い形質が選択されてきたことをゲノムから示し、今後顔の形態はよりグローバルな方向へ進化する予感を示している。次は、ネアンデルタール人の顔を再構成して欲しい。
これらの顔も、例えばヨーロッパでは鼻の高い形質が選択されてきたことをゲノムから示し、今後顔の形態はよりよりグローバルな方向へ進化する予感を示している。
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現代人の“顔”も“進化の途上”
未来の人類はどんな顔をしているのでしょうか?