パーキンソン病の細胞生化学的原因については詳しく解析が行われており、これに基づく新しい治療法の開発が行われている。しかし、黒質のドーパミン神経が失われることで発生する運動障害は個人差も大きく、まだまだ解析の余地は大きい。
現在生理学的に運動に関わる神経回路を正常化するのに視床の深部刺激が行われているが、歩行自体は脊髄後根から入ってきた脳からの運動神経が、前角で筋肉を動かす運動ニューロンを刺激して起こるので、脳をスキップして、末梢の回路を刺激することで、運動を正常化させる可能性がある。
今日紹介するローザンヌ工科大学からの論文は、脊髄背側を走る脳からの神経が脊髄内に侵入する後根侵入部を刺激してパーキンソン病の運動障害を治療する可能性を示した研究で、11月6日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「A spinal cord neuroprosthesis for locomotor deficits due to Parkinson’s disease(脊髄の神経刺激によるパーキンソン病の運動障害治療)」だ。
この研究はこれまで何度も紹介し、今年9月にも発展状況を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/22954)脊髄硬膜外から神経刺激することで脊髄損傷の患者さんを再び歩けるようにする、neuroprosthesis(神経的義肢)を開発してきたローザンヌ工科大学によって行われている。脊髄損傷については、脳から切り離された神経的義肢の段階から、脳のコントロールを取り戻す方法へと着実に進化しており、最近では我が国のメディアでも広く取り上げられるようになっている。
パーキンソン病(PD)の運動障害も、当然培ってきた技術の対象となるが、運動ニューロンの障害ではなく、中枢での調整の問題なので、中枢からの神経の混乱を出来るだけ鎮めて、運動ニューロンに伝えるという戦略が用いられる。
この目的のために、まず動物のパーキンソン病モデルを用いて脊髄後根侵入部の興奮や、筋肉収縮など様々な測定を行い、正常とPDの差異を徹底的に解析して、運動野の反応を正しい歩行へとつなげるための、抗渾身入部の刺激方法を開発している。また、PDの治療に用いられている深部脳刺激との相互作用も動物で確認している。
詳細は省くが、このような動物モデルでの解析の上に、一人のPD患者さんについて、筋肉運動と後根侵入部の活動のモデルを形成し、このモデルに基づき脊髄損傷で用いる硬膜外電極を設置し、運動時のバランス、立ちすくみを完全に防止することが可能であることを示している。さらに、深部刺激と連動させ、リハビリを行うことでほとんど正常人と同じ歩行能力が回復できることを示している。
最初の被験者になった患者さんは30歳から30年以上 PD として過ごしてこられた方で、運動障害が強い患者さんも普通に歩けるようになることは間違いない。
ただ、この治療では、電極の位置決めや、刺激のためのデータ解析など、一人一人の患者さんに時間をかけて対応する必要があり、この部分がより簡便化できないと、PD の一般的な治療としては物理的に難しいと思う。
それでも、歩けるようになることは間違いなく、必要なPD患者さんに治療を届ける方法をさらに突き詰めて欲しい。
1:最初の被験者になった患者さんは30歳から30年以上PDとして過ごしてこられた方で、運動障害が強い患者さんも普通に歩けるようになることは間違いない。
2:この治療では、電極の位置決め、刺激のためのデータ解析など、一人一人の患者さんに時間をかけて対応する必要がある。
Imp:
多くの患者さんに簡便に施行できる、現実的治療法に進化できるか?!