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9月23日 脊髄損傷治療Logical Thinking : ローザンヌ工科大学は脊損治療研究の一大センターになりつつある(9月22日号 Science 掲載論文)

2023年9月23日
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現役の頃、再生医学が脊髄損傷の救世主になり得るのではないかと期待し、再生医学プロジェクトの一つの柱と位置づけていたが、あれから10年以上たって振り返ってみると、進展があまり見られていない印象が強い。しかしこの間、ローザンヌ工科大学(EPFL)からは、まず神経記録とAIを用いて慢性脊髄損傷の患者さんをともかく歩けるようにする方法の開発を行い、それをベースにさらに進化させており、今や我が国でも報道されるようになってきた。勿論この素晴らしい経過についてはこのHPでも紹介してきたし、Youtubeでも論文紹介を行った。

この方法では完全にAIが脊髄神経を刺激して歩行させるので、最初は自分の脳を使って歩いたという感覚を得ることは難しい、車椅子と同じ位置づけだったが、神経が残っている場合は脳支配を回復することも可能だし、最近では電気的に脳シグナルをリレーする方法も開発され、回路形成を熟知した Logical Thinking が如何に重要であるかを示している。

このように工学的な方法に集中しているのかと思っていたらEPFLから脊髄再生方法開発のための、Logical Thinking にもとづいた研究が9月22日号の Science に発表された。タイトルは「Recovery of walking after paralysis by regenerating characterized neurons to their natural target region(特徴明らかな神経を再生させ標的に導くことで歩行が回復する)」だ。

この研究では脊髄の半側が傷害された場合は、人間でも時間をかけて両側の運動が回復すること、そしてこれが胸部脊髄に存在する神経が反対側にリレーする神経回路を形成出来た結果であることに着目し、この時胸部脊髄に存在して、脊髄損傷に反応して再生を始め、リレー回路を形成する神経細胞を、Single cell RNA sequencing で特定する。この細胞を特定するための脊髄損傷の入れ方など、様々な工夫がよくわかるプロの実験だが、その結果胸部脊髄だけに存在する Vsx2分子を発現した神経細胞が活性化し、新しい回路形成に関わることを明らかにする。

こうして細胞が特定できると、再生時のその振る舞いと遺伝子発現から、次は完全脊損でもこのリレー細胞を活性化し、標的に導く可能性が見えてくる。この目的のための論理的戦略として、1)リレー細胞をサイトカインカクテルを発現するウイルスベクターの局所注射で活性化する、2)少し遅れてリレー細胞の通り道をサイトカイン投与で整備する、そして3)最後に標的部位に神経増殖因子マトリックスを注射、をまず試している。

期待通り、組織学的には切断部を超えてリレー神経が再生するが、この方法では残念ながら標的の運動神経への結合が起こらず、機能は回復しない。

そこで、長期に神経投射を誘導するため、レトロウイルスベクターを用いて神経伸長因子が標的部位で長期間合成できるようにすると、今度は運動神経とつながり、処置後4週で運動が回復することを示している。

結果は以上で、実際には多くのトライアンドエラーがあったと推察するが、最終的には Logical Thinking がよくわかる研究になっている。これが人間でも可能になるのか、まだまだわからないが、EPFLの勢いを見ると期待してしまう。機械やAI、そして再生医学まで、Logical Thinkingを貫いて、EPFLは脊損研究の世界をリードしていることがよくわかる論文だ。

  1. okazaki yoshihisa より:

    長期に神経投射を誘導するため、レトロウイルスベクターを用いて神経伸長因子が標的部位で長期間合成できるようにすると、今度は運動神経とつながり、処置後4週で運動が回復することを示している。
    imp.
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