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10月31日 免疫リボゾームを可能にするメカニズム(10月21日 Cell オンライン掲載論文)

2024年10月31日
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免疫リボゾームという概念がこれまでも提唱されている。すなわち、一部のリボゾームが機動的に免疫反応特異的にリクルートされ、様々なサイトカインが関与して起こる反応に必要なタンパク質を機動的に作っているという考えだ。実際、考えてみると mRNA の量でだけ翻訳が決まるとすると、免疫反応のように抗原やサイトカインに反応して様々なタンパク質を急速に用意するのは簡単ではなく、今必要な mRNA を必要とされるときに優先して作る仕組みがあることは望ましい。

今日紹介するオランダ ガン研究所からの論文は、免疫リボゾームが存在するはずだという信念で、サイトカインに反応して免疫に関わる分子の翻訳が特異的に高まる可能性を探り、P-Stalk と呼ばれる翻訳の速度や正確性を調節している分子により実現していることを明らかにした面白い論文で、10月21日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「P-stalk ribosomes act as master regulators of cytokine-mediated processes(リボゾームから突き出た P-stalk はサイトカインにより媒介される過程のマスター調節因子として働いている)」だ。

もし免疫反応に必要な分子が優先的に翻訳されるなら、サイトカインの刺激によりリボゾームで飜訳されている分子を調べると、他の分子に比べ、免疫反応に関わる分子の飜訳が高まっているリボゾームが存在し、そのリボゾームと他のリボゾームは構成しているリボゾームタンパク質に差があると考えられる。そこでメラノーマを様々なサイトカインで刺激すると、期待通りクラス I MHC をはじめとする抗原提示に必要な分子の翻訳が高まる。選択的な免疫リボゾームが存在する可能性を強く示唆する。そこで、サイトカインで刺激したときだけにリボゾーム起こる分子変化を探索した結果、p-Stalk として知られる構造の構成因子 P1 分子がサイトカイン刺激によってもう一つのタンパク質 P2 と結合し、それがリボゾームに統合されることを発見する。すなわち、サイトカインに反応してリボゾームの構造が変化する主役が、P-Stalk の形成になる。

そこで、実際に P-Stalk がサイトカイン刺激時のリボゾームの機動性を担っているのか調べる目的で siRNA を用いたノックダウン実験を行っている。P1 をノックダウンしたメラノーマ細胞では HLA タンパク質の発現が強く抑制され、その結果機能的にもT細胞を刺激する活性が強く抑制されることを明らかにしている。この間、ハウスキーピング分子などの飜訳には特に影響がないので、サイトカイン刺激により、免疫刺激に関わる分子がより選択的に飜訳される。実際、サイトカインにより形成された P-Stalk により翻訳が促進される分子の7%は免疫関連で、これらは翻訳されている全タンパク質のなかでは0.6%に過ぎない。

最初の実験はメラノーマで行っているが、どの細胞を使っても、またインターフェロン、TNF、IL17 などほとんどのサイトカインで同じように P1 と P2 の会合とそれに続く P-Stalk 形成が誘導される。また、細胞はガン細胞に限らず、本来免疫刺激の役割を担っている、正常マクロファージや樹状細胞でも同じことが起こる。

最後に、P1/P2 の会合の分子メカニズムを調べている。その結果、サイトカインは P1/P2 会合を阻害しているタンパク質リン酸化を何らかの経路でブロックすることで、P1/P2 会合を誘導することがわかった。面白いのは、例えば TGFβ のようなサイトカインとは逆の反応を起こす分子は、P1/P2 のリン酸化を誘導して、両者の会合をブロックし、急速に免疫に関わる分子の翻訳は低下する。

以上が結果で、リボゾームも P-Stalk 形成により、ある程度選択的に翻訳を高めることで、細胞の急速な変化を支えていることが明らかになった。残念ながら、なぜ特定の mRNA だけが P-Stalk -リボゾームにリクルートされるのかのメカニズムはわからないままだが、ガンの免疫逃れを考える上でも面白い発見だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    p-Stalk として知られる構造の構成因子 P1 分子がサイトカイン刺激によってもう一つのタンパク質 P2 と結合し、それがリボゾームに統合されることを発見!
    Imp:
    リボゾームを専門特化させる機構があったとは!

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