アルツハイマー病の異常 Tau を除去する方法として、神経系で発現している TRIM21 のリングドメインを、標的タンパク質に結合する分子と融合させ、凝集 Tau を分解する試みが進んでおり、このブログでも8月(https://aasj.jp/news/watch/25114) と9月(https://aasj.jp/news/watch/25224)に紹介した。ただ、この方法はこれらの分子をコードする遺伝子を細胞に導入する必要があった。
一方、プロタックと呼ばれる標的分子を使ってユビキチンリガーゼを標的分子にリクルートする治療法は、基本的に小分子化合物が細胞内に入って、ほとんどの細胞に発現しているユビキチンリガーゼと標的分子を結合させ分解する。古くから利用されているのは、骨髄腫の治療に用いるレナリドマイドで、セレブロンと呼ばれるユビキチンリガーゼとイカロス転写因子を結びつけて分解している。
今日紹介する中国精華大学からの論文は、TRIM21 も、レナリドマイドと同じように、化合物で標的タンパク質にリクルートできる可能性を示した研究で、11月1日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Selective degradation of multimeric proteins by TRIM21-based molecular glue and PROTAC degraders( cTRIM21 を基盤として重合タンパク質を選択的に分解する分子接着剤とプロタック分解因子)」だ。
この研究が面白いのは、最初からプロタックを目指した研究ではないことだ。最初はインターフェロン刺激を受けたガンを選択的に殺す化合物を探索していた。その結果、これまでドーパミン受容体の阻害剤として知られていた ACE (Acepromazine) が8万種類の化合物のスクリーニングで見つかった。
ACE がインターフェロン刺激腫瘍を傷害する過程を調べて、ついに ACE が TRIM21 をユビキチンリガーゼとして他の標的にリクルートすることで細胞障害性を発揮していることを発見する。ただ極めて複雑な実験を繰り返してこの結論に至っている。
まず ACE 自体に細胞障害性があるのではなく、細胞の中で aldo-keto reductase で OH 基が付加された化合物に変換されて初めて細胞障害性を持つようになる。
次に、インターフェロン刺激ガン細胞だけで障害が起こる原因を探ると、インターフェロンが TRIM21 を誘導し、TRIM21 が存在しないと ACE の細胞障害性は消失することがわかった。すなわち、ACE がインターフェロンで誘導された TRIM21 を標的分子にリクルートすることで、細胞障害性を発生している可能性が強い。
そこで TRIM21 と ACE が作用している細胞のプロテオーム解析を行うと、いくつかの核膜孔構成タンパク質が分解されていることを発見する。そして最終的に NUP98 核膜孔構成分子が ACE のによりリクルートされる TRIM21 の標的であることを突き止める。結果だけを手短に紹介しているが、実際には様々なテクノロジーを駆使した実験の結果この結論を引き出しており、かなり高い実力を感じる。
このように、 ACE はそれ自身で核膜孔分子に TRIM21 をリクルートし、その結果核膜孔が破壊されることで細胞が傷害されることが明らかになった。ただ、このままでは薬剤として使用できる対象は限られている。
そこで、例えばセレブロンなどのユビキチンリガーゼを目的のタンパク質にリクルートする、いわゆるプロタックの方法を、ACE にも適用して TRIM21 を NUP98 以外のタンパク質にリクルートし、分解できるかを、ACE に BRD4 転写因子と結合する JQ1 を融合させると、NUP98 を分解する活性はなくなり、代わりに BET1 が分解されることを観察している。そのほかにも、細胞質内に存在する DNA センサー分子 GAS に結合する SLF を融合させ、同じように ACE により GAS が分解することを示している。
結果は以上で、ガン治療薬として発展させる可能性は大いにあるが、やはり TAU 分子と結合する化合物と融合して、TAU を分解する飲み薬の開発へと発展する方が面白いような気がする。現在 TRIM21 を利用するプロタックの研究が進んでいるが、ACE はかなり筋のいいリード化合物であるような気がする。
ACE がインターフェロン刺激腫瘍を傷害する過程を調べて、ついに ACE が TRIM21 をユビキチンリガーゼとして他の標的にリクルートすることで細胞障害性を発揮していることを発見!
Imp:
経口投与はDDSの王道だと思います。
ACE=有望なリード化合物。
今後の展開に期待。