細胞内で凝集した Tauタンパク質をユビキチン化してプロテアソームで分解できることが明らかになって、俄然、細胞内Tauを標的にした治療法の開発が進み出した。このブログでも、脂肪ミセルに包んだ抗体を鼻から投与し、脳内のTauを脳神経に届けて除去するテキサス大学の方法(https://aasj.jp/news/watch/24763)、そして細胞内のTauを認識するナノボディーにユビキチン化に関わる TRIM21のRing domain を結合させたキメラ遺伝子を脳内に導入して凝集Tauを分解させるケンブリッジ大学の遺伝子治療法(https://aasj.jp/news/watch/25114)を紹介した。
今日紹介するのは同じケンブリッジのグループとMRCが共同で発表した論文で、ナノボディーの代わりに凝集活性が強いTau自身を使って凝集Tauをユビキチン化する面白い遺伝子治療法の開発で、9月13日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Co-opting templated aggregation to degrade pathogenic tau assemblies and improve motor function(鋳型による凝集性を用いて病原性Tauを分解し運動機能を改善する)」だ。
凝集TauにTRIM21分子のRingドメインをリクルートしてユビキチン化するという原理は、ナノボディーを使った方法と全く同じだが、今回はなんと凝集力が高まった変異Tau自体にRingドメインを結合させ(Tau-Ring) 、この分子が自然に凝集Tauに集まる性質を利用して、凝集Tauをユビキチン化する、いわば毒をもって毒を制する方法だ。
期待通り Tau-Ring を発現させた細胞では、凝集Tauを加えても完全に分解される。この分解がユビキチン、ユビキチン化されたTauに結合するシャペロンVCP、そして分解するプロテアソームの経路で進むことを阻害剤の実験から、また凝集Tauは完全に分解され、他の神経に伝搬する小さな凝集を残さないこと、そしてRingドメインに変異を導入する実験で、Ringドメインがダイマーを形成することがユビキチン化に必須であることなどを明らかにしている。すなわち、凝集Tauの分解は、典型的なユビキチン・プロテアソーム経路で行われる。
次に、アルツハイマー病、進行性核上性麻痺と、異なる凝集形態をとるTau を、患者さんの脳から分離して、それぞれに対する活性を調べ、異なる形態をとるTau凝集塊も、この方法で完全に分解できることを明らかにしている。
そして最後は、脳に遺伝子を届けることができる新しいアデノウイルスにTau-Ring遺伝子を組み込み、Tau凝集により運動麻痺が起こるマウスモデルに静脈注射してTau-Ringが脳内の届けられること、それにより凝集Tauが分解され、その結果マウスの歩行機能が正常化することを明らかにしている。
以上が結果で、ナノボディー / Ring 論文と比べてみたが特に治療実験は異なるモデルが用いられているので比較がしにくい、おそらく遺伝子の大きさもそれほど違いがないので、効果については今後、実際の治験で試していくしかないと思う。いずれにせよ、どちらも治験が可能な材料はほぼ揃っているので、臨床での検討は遠くない話だと思う。Tau標的の治療可能性が揃ってきた。
今回はなんと凝集力が高まった変異Tau自体にRingドメインを結合させ(Tau-Ring)、この分子が自然に凝集Tauに集まる性質を利用して、凝集Tauをユビキチン化する
Imp:
Tau標的のAD遺伝子治療。
面白い時代になってきました。