どの国の自然博物館に行っても恐竜は子供たちに大人気だが、自分の学生時代を振り返ると、恐竜にはまっていた友人というのはいなかったしそれほど話題にもならなかった。要するに、恐竜について様々な場所で学べるようになったということだが、恐竜についての知識の完全欠落を今日論文を読んでいて思い知らされた。
今日紹介するスウェーデン・ウプサラ大学からの論文は、Polish Basin と呼ばれるヨーロッパ地核帯の東端から出土する三畳紀からジュラ紀にかけての古生物及びその糞の化石から当時の食物連鎖を調べ、私でも知っている T-rex などの大型獣脚類の進化のあとをたどろうとした研究で11月27日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Digestive contents and food webs record the advent of dinosaur supremacy(消化内容物と食連鎖の記録から恐竜の繁栄の始まりがわかる)」だ。
この論文に出てくる古生物の名前についてほとんど知らないので読むのが大変な論文だ。まず登場した主な生物をリストすると、saurischian (竜盤類) 、ornithischian (鳥盤類) 、temnospondyli (分椎目) 、therapsids (獣弓類) 、archosauromorphs (主竜形類) 、dinosauriform (恐竜形類)、silesaurids(シレサウルス)、sauropodomorphs (竜脚形亜目) 、sarcopterygians (肉鰭類) 、phytosaurs (植竜類)、dicynodonts (ディキノドン)、aetosaur (鷲竜類) 、rauisuchian (ラウイスクス類) 、lisowcia (リソウィキア) 、eucynodont (ユーキノドン) 、pseudosuchian (偽鰐類) 、polonosuchus (ポロノスクス) 、stagonolepis(スタゴノレピス)、そしてbatrachopus (バトラコプス) だ。
今の恐竜少年なら全て知っているのかもしれないが、ともかく文字として現れるとちんぷんかんぷんで大変だ。そして、これらがポーランドで全て出土し、三畳紀からジュラ紀にかけて主が変化する。この大きな変化は、大陸プレートの移動に従い最初極めて乾燥していた三畳紀が中期を超すと徐々に湿度の高い亜熱帯型気候へと変化すること、そして Central Atlantic Magmatic Province と呼ばれるヨーロッパ大火山運動による溶岩でこの地域が埋め尽くされ、生物が絶滅するという歴史を経ていることで、恐竜が生まれてくる進化のダイナミズムが秘められている点だ。
この研究の特徴は、このダイナミズムを糞が化石化した糞石をシンクロトロンなど最新の機器を用いて分析し、そこに見られる恐竜の食生活を再構成することで大型恐竜への進化過程を調べている点で、恐竜の骨格だけを追跡する研究とはひと味違った面白さがある。
まず糞石をここまで精密に調べることができることに驚く。オープンアクセスなので是非論文を見てほしいが便の中に存在する植物、動物や魚の骨、昆虫など驚くほど生々しく見ることができる(https://www.nature.com/articles/s41586-024-08265-4/figures/2)。また、糞石の形やサイズからそれを排出した恐竜まで推定できる。実に小さな糞から大きな糞、さらには長い糞からとぐろを巻いている糞まで存在し、本当に面白そうな分野だ。
こうして食べていたものを調べることで、最初植物を食べていた恐竜を除くとほとんどは昆虫と魚を中心に食べているが、それぞれの時代食連鎖の頂点に立っていた恐竜を特定できる。三畳紀初期ではラウイスクス類、そして中期では恐竜形類と呼ばれるジュラ紀の竜脚類にもっとも近縁な恐竜、そしてジュラ紀は T-rex などの大型の竜脚類になる。
そして、この大型化の最も大きな原因になったのが亜熱帯気候への変化と、その間一度多くの動植物が絶滅した火山運動で、新たな植物が大繁殖し、それにより菜食の恐竜の多様化と大型化が進んだと結論している。
以上読むのに苦労したが、糞石研究の重要性を初めて認識できた面白い研究だ。最後に食物連鎖と進化の過程が図で提示されているのでそれを引用しておくので、是非眺めてほしい。(https://www.nature.com/articles/s41586-024-08265-4/figures/3)