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5月22日 パーキンソン病の進行はMEK阻害剤で抑えられる(5月14日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2025年5月22日
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パーキンソン病 (PD) は神経細胞が変性により失われる病気なので、治療としては失われた細胞を取り戻す再生医療、あるいは他の細胞にドーパミン産生を肩代わりさせる遺伝子治療が中心になる。ただ、細胞喪失の原因を少しでも和らげて、経過を遅らせる治療も重要だ。その一つが、神経を傷害する異常αシヌクレインを抗体で除去する方法でおそらく多くの研究が進んでいる。これと平行して、様々な薬剤でαシヌクレインの影響を抑える方法も開発が進んでおり、このブログでも異常αシヌクレインに対する神経細胞の反応を阻害して細胞死を防ぐc-Able阻害剤(https://aasj.jp/news/watch/21414)、またαシヌクレインの伝搬を防ぐAXLキナーゼ阻害剤(https://aasj.jp/news/watch/26237)などについて紹介してきた。

まず今日紹介するPDの進行を防ぐ薬剤開発を目指した研究論文を読んで驚いたのは、AXLキナーゼを報告した上海復旦大学大学の同じ研究施設からの論文だが、主要著者が全くことなる点だ。内情はわからないが施設内ですごい競争が行われているのだろうか?今日紹介する論文のタイトルは「MEK1/2 inhibitors suppress pathological α-synuclein and neurotoxicity in cell models and a humanized mouse model of Parkinson’s disease(MEK1/2阻害剤は異常なαシヌクレインと神経毒性を細胞モデルとヒト化したパーキンソンモデルで抑えることができる)」だ。

MEK1/2阻害剤というとメラノーマやRAS活性化ガンに現在使われている薬剤で、タイトルを見たとき「え!これがPDに効くの?」と驚いた。研究ではラベルしたシヌクレインの細胞内の濃度を低下させる薬剤がないか、既存の50種類の化合物を細胞に加えて探索した結果、MEK1/2阻害剤に効果があることを発見している。即ち、正常シヌクレインの細胞内濃度を下げる効果がMEK阻害剤にある。また、神経細胞を異常シヌクレインに暴露して細胞内でのリン酸化シヌクレイン、さらには繊維化シヌクレインを誘導する系では、正常と同じように異常シヌクレインも抑えることができる。すなわち、全てのシヌクレインの細胞内濃度を下げることができる。

このメカニズムについて細胞レベルで調べると、正常シヌクレインについてはMEK阻害剤はオートファジーを抑えるTFEB分子をリン酸化して、オートファジーを促進することで細胞濃度を下げている。ところがこの経路はリン酸化及び異常シヌクレインの除去には関与していないこともわかった。

そこで異常シヌクレインに暴露したときに誘導されるαシヌクレインのリン酸化、その後の凝集に関わる分子として知られるPLK2キナーゼ活性について調べると、MEK阻害剤でPLK2タンパク質の細胞内濃度が低下することを発見する。その結果、正常シヌクレインのリン酸化が低下し、シヌクレイン凝集も抑えられることがわかった。これをまとめると、MEK阻害剤は異常シヌクレインの原料になる正常シヌクレインの濃度をオートファジー促進で下げると同時に、シヌクレインリン酸化に関わるPLK2の濃度を下げることで、リン酸化シヌクレイン、凝集シヌクレインの生成自体を抑えることがわかった。

最後に、米国バイオベンチャーSpringWorksが開発し神経線維腫症の治療治験が進行中の、脳血管障壁を通過できるMEK阻害剤Mirdametinibを投与して、シヌクレインをヒト化して異常シヌクレインを線条体に注射してPDを誘導するPDモデルマウスの症状と病理を抑えられるか調べ、強い副作用なしに症状及び病理レベルでPDの進行を抑えられることを明らかにしている。

以上が結果で、今年2月に紹介した論文よりはずっと臨床に近いところまで研究が進んでいるので、是非治験を進めてほしいと思う。細胞移植と言ってもPD患者さんの数を考えると、そう簡単に治療数の拡大は見込めないだろうが、以前紹介したAble阻害剤と今回のMEK阻害剤による治療は重要だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:MEK阻害剤は異常シヌクレインの原料になる正常シヌクレインの濃度をオートファジー促進で下げる
    2:シヌクレインリン酸化に関わるPLK2の濃度を下げる
    3:リン酸化シヌクレイン、凝集シヌクレインの生成自体を抑える
    Imp:
    MEK1/2阻害剤がPD治療薬候補に浮上

    施設内ですごい競争が行われている⇒可能性大きいです。躍進の原動力!

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