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6月18日 Foxo3を活性化して若返らせた間葉系幹細胞は全身の細胞を若返らせる(5月19日 Cell オンライン掲載論文)

2025年6月18日
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間葉系幹細胞や細胞由来のエクソゾームを用いた抗老化治療をうたった美容診療医院を神戸でも見かける。間葉系幹細胞が骨髄移植時の GvH 抑制や、関節疾患の治療に使われ、認可された製品があることはよく理解しても、抗老化となるとなんとなくうさんくさい印象を持っていた。

今日紹介する北京大学からの論文は、このうさんくささを解消すべく、しかもアカゲザルを用いてヒトES細胞由来間葉系幹細胞に抗老化作用があることを、老化研究で用いられる最新の実験方法を用いて示した研究で、本当なら大騒ぎになっても良さそうな論文で、5月19日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Senescence-resistant human mesenchymal progenitor cells counter aging in primates(老化が起こりにくく操作したヒト間葉系前駆細胞はサルの老化を防ぐ)」だ。

Foxo3 は抗酸化反応を調節するなど、様々な抗老化作用に関する転写を調整する転写因子で、老化研究の一つの鍵と言える。この研究グループは、Foxo3 のアミノ酸の一部を操作することで、例えば血管の老化を防げることを発表していたが、この論文ではヒトES細胞でまず Foxo3 に老化を防ぐ変異を導入し、間葉系幹細胞を試験管内で誘導すると、試験管内で老化なしに増殖し続ける細胞が樹立できることを示している。そして、この老化しない間葉系幹細胞 (senescence resistance cell:SRCと呼んでいる) を注射することで、全身の老化細胞を活性化できるのではと着想し、ヒトで言えば60-70歳にあたる年齢を含む様々な年齢のアカゲザルの静脈に注入して、様々な老化指標を調べている。細胞は2週間に1回、1キログラムあたり2200万個を注入し続け、しかも44週間という長期に観察を続けている。

結果は驚くべきもので、コントロールに使った Foxo3 を改変していない間葉系細胞 (WTC) でも一定の抗老化効果が見られるが、ARC を注射したグループはあらゆる指標で大きな抗老化作用が認められる。実際ここまでやるかと言うほど、様々な方法で若返ったことを確認している。

例えば、脳では老化による皮質の縮小を抑えることができ、組織学的には老化で切れ切れになっているミエリンの構造が元通りになる。さらには、アミロイドや Tau の沈着も抑えられ、その結果として様々な認知試験が正常化するとともに、CT で調べた脳の構造も正常化している。

老化の伴い炎症性サイトカインの上昇が認められるが、これも正常化し、血液細胞レベルでみると、p21の発現による細胞老化が強く抑えられ、酸化ストレスによる DNA 障害が低下、自然炎症性サイトカインの合成が抑えられる。

他にも生殖臓器を含む様々な臓器について、組織学的アッセイ、転写アッセイ、そして single cell RNA sequencing を駆使して老化が抑えられていることを示している。また、最近老化時計の指標として使われる、遺伝子発現やDNAメチル化指標を用い、その結果を機械学習を用いて数値化して、若返り度を年齢に換算して示している。メチル化指標を用いるとアカゲザルでなんと5歳、人間で言えば15歳も若返ることを示している。

これ以外にも、生殖機能も含めほとんどの組織で老化指標が軒並み低下することを、最新のテクノロジーを用いて示しているが、紹介は割愛する。要するに、私の目で見てレベルの高い最新の方法とインフォーマティックスを用いて調べており、しかもアカゲザルを長期に観察するという極めて手間のかかる研究が行われている。

以上が結果だが、ではこのまま臨床に進むのかを考えてみると、一つ大きな問題がある。それはヒトに近いサルを用いたのはいいが、ARC はすべてヒト由来の細胞で、これをサルに注射しても当然ガンはできないだろうし、効果が完全に ARC だけによるかは疑問だ。というのも若返り効果はWTCにも少し見られるので、異種細胞を繰り返し注射する効果と言えなくもない。私がレフリーなら、アカゲザルのES細胞由来 ARC を用いた実験を要求したと思う。この実験でガンの心配が無く、若返り効果が確認されたら、大騒ぎになると思う。

もう一つの問題は、Foxo3 の変異は ARC にだけ導入されていることを考えると、なぜ若い間葉系幹細胞が細胞の老化を抑えるのかについてのメカニズムが全くわかっていない点だ。この問題を回避するため、著者らは ARC の効果が ARC 由来エクソゾームで得られることも最後に示しているが、マウスや試験管内実験が減少として示されているだけでそのまま鵜呑みにしにくいと思う。

とはいえ著者らはかなり自信がありそうで、論文の書きようも高揚感に満ちあふれており、ついに抗老化治療の切り札を手にしたと宣言している。おそらく、間葉系細胞を用いている多くの美容診療医院にとっては追い風になりそうだ。

  1. okazaki yoshihisa より:

    コントロールに使った Foxo3 を改変していない間葉系細胞 (WTC) でも一定の抗老化効果が見られるが、ARC を注射したグループはあらゆる指標で大きな抗老化作用が認められる!
    Imp:
    北京大学より。
    中国はアメリカを抜き去ったのか!?

    https://news.yahoo.co.jp/articles/82926173d4f5c82bb594277dcf01223b0ecbeb6b?page=1

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