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6月21日 体内にmRNA/ナノパーティクルを投与してT細胞をCARTに変える(6月19日 Science 掲載論文)

2025年6月21日
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ガンに反応する抗体とT細胞受容体をキメラにした遺伝子を導入して、Bリンパ性白血病の治療に用いる CAR-T 治療が Science の選んだ今年の10大ニュースに選ばれたのは2017年だが、あれから8年、オリジナルな方法に様々な改良が加えられては来たが、臨床応用された大きなブレークスルーはまだないように思う。

現在行われている CAR-T の問題は患者さんごとにリンパ球への遺伝子導入を行うため、ばらつきを避けられず、またコストがかかる点にある。これを解決しようと、誰にでも使える CAR-T の様々な治験が行われているが、まだ FDA が認可した方法はない。

もう一つの方向は、全く遺伝子導入を行わず、T細胞とガンをブリッジする抗体を用いる方法で、すでに FDA の認可が下り治療が進んでいる。

今日紹介するサンディエゴにある Capstan Therapeutics からの論文は、mRNAワクチンと同じようにキメラT細胞受容体遺伝子をリピッド粒子に閉じ込めて注射することで、患者さんのリンパ球をキラー細胞に変えて、全ての反応を体内で済ませてしまう方法の開発についての論文で、6月19日 Science に掲載された。タイトルは「In vivo CAR T cell generation to treat cancer and autoimmune disease(体内でCART細胞を生成してガンや自己免疫を治療する)」だ。

mRNAワクチンのように Lipid Nanoparticle を遺伝子治療に利用するときの関門は、目的の細胞に選択的に粒子が取り込まれるようにする必要がある。ワクチンと違い静脈に注射した場合、通常の粒子は肝臓でトラップされ、肝臓細胞に遺伝子が導入されてしまう。これを防ぐためにイオン化脂質を取り込ませることが行われるが、この研究では L829 と呼ばれる独自のイオン化脂質を使っている。

L829 を含まない粒子に蛍光遺伝子を詰めて静脈注射すると、遺伝子はほとんど肝臓に取り込まれ、肝臓で強い蛍光遺伝子の発現が見られる。一方。L829 を取り込ませた粒子は肝臓でのトラップが強く抑制される。

次に、さらにリンパ球特異的に遺伝子を導入するため、この粒子に CD5 や CD8 に対する抗体を取り込ませ、目的のリンパ球に選択的に遺伝子導入が可能か調べ、CD5 抗体を組み込んだ場合、肝臓にはほとんど取り込まれず、脾臓のリンパ球に強く取り込まれることを、ラットとカニクイザルで確かめている。

次に、CD8 に対する抗体を組み込むことで、CD8 T 細胞特異的に遺伝子導入が可能か調べている。結果は期待通りで、ほぼ CD8 T 細胞特異的に遺伝子導入が可能になっている。

異常の条件設定の上で、ヒト血液細胞を持続的に生産しているヒト化マウスモデルを用いて、現在最も使われている CD19 に対するキメラ受容体遺伝子を導入し、ナノ粒子を注入することでヒトB細胞を除去できるか調べている。CD19 抗体を持つキメラ遺伝子を導入した CART は、ガンだけでなく正常B細胞も除去してしまうので、この現象を利用している。驚くことに、CD19 キメラ受容体遺伝子を詰めた CD8 抗体-ナノ粒子をヒト化マウスに静脈注射すると、なんと3時間ぐらいでほぼ完全にヒトB細胞が除去される。

ただ、レンチウイルスベクターによる遺伝子導入とは異なり、mRNA / ナノ粒子の場合、遺伝子発現は続かないため、2週間程度で新たしく作られたB細胞に置き換わる。この一過性の抑制は、抗体が中心の自己免疫病治療には理想的な性質で、異常B細胞を除いて、骨髄からの新しいB細胞で置き換えて、自己免疫病の再発を抑えることに使える。

このように、ホストのB細胞だけでなく、移植したB細胞性白血病もmRNA / ナノ粒子でほぼ完全に抑えられることを示している。

最後に前臨床の締めくくりとして、カニクイザルのB細胞を認識できる CD20 抗体をキメラ受容体に利用し投与することで、CART 誘導してサルで正常B細胞を完全かつ一過性に除去できることを示している。また、3週間ぐらいから徐々に新しいB細胞が末梢血に現れることも確認し、少なくとも抗体が原因の自己免疫病の治療に利用できることを示している。

もちろんこれほどの反応が起こることから、サイトカインストームが発生することは必至で、一匹のサルではかなり重症の炎症が発生している。ただ、サイトカインストームを予想して免疫抑制全処理をしても、B細胞除去効果に変化はないことから、十分臨床的に対応できると結論している。

以上が結果で、データからはかなり有望な印象がある。臨床治験も早いような気がする。

  1. okazaki yoshihisa より:

    静脈に注射した場合、通常の粒子は肝臓でトラップされ、肝臓細胞に遺伝子が導入されてしまう。
    これを防ぐためにイオン化脂質を取り込ませることが行われるが、この研究では L829 と呼ばれる独自のイオン化脂質を使っている。
    Imp:
    イオン化脂質L829も肝の一つ!

    複雑なLogic gated Car、Cytokine制御論理回路もこの方法で送達可能なのか?
    複雑な細胞コンピューター論理回路は、ex vivo遺伝子細胞治療法でないと思います。

    ex-vivo派もT-charge法,T-spot法の開発でチャレンジします。

  2. okazaki yoshihisa より:

    2025年6月11日

    Capstanの主要な抗CD19 in vivo CAR-T候補であるCPTX2309の第1相試験において、B細胞性自己免疫疾患の治療薬として最初の参加者の投与が成功したそうです。

    瞬足!

    Capstan Therapeutics Announces Initiation of Phase 1 Trial of Lead In Vivo CAR-T Therapy, CPTX2309, for Treating Autoimmune Disease | Capstan Therapeutics

    1. nishikawa より:

      情報ありがとうございます。現在のCAR-Tを蹴落とすことすらあり得ると思います。

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