トランプ政権は米国の医療費を削減するため製薬業界に様々な圧力を加えている。この動きの一つの標的が GLP-1 受容体アゴニスト (GRA) の肥満への処方で、昨日 FDA はイーライリリーとノボノルディスクとともにオンライン診療大手に対して、減量薬の不都合な使用に対する警告書を送ったことが報道されていた。同じ問題は我が国にも存在し、コロナ以降解禁されたオンライン診療は GRA処方をドル箱にしている。
この問題がどこまで広がるのかを調べた調査が8月9日 Rand 研究所から発表されているが(https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA4153-1.html)、Rand 研究所が維持している3000人弱のアメリカ人を代表するポピュレーションに GRA治療を受けたことがあるかを聴いたところ、答えた成人の11%が GRA治療を受けた経験があり、特に50-64歳では女性で20%、男性で16.8%が使用経験ありと答えている。肥満によって生活習慣病になるより手っ取り早い治療と言えるのだが、この広がりを見ると驚く。
実際 GRA が糖尿病患者さんの心血管障害を予防する効果が大きいことを示す治験結果は GRA処方の最も重要な根拠だが、GRA前に代謝改善目的で行われた胃バイパス手術と比べると、第一世代の GRA の効果は多くの点で劣っていることを示す観察研究がクリーブランドクリニックから9月16日 Nature Medicine にオンライン発表された。タイトルは「Macrovascular and microvascular outcomes of metabolic surgery versus GLP-1 receptor agonists in patients with diabetes and obesity(胃バイパス手術あるいは GLP-1 受容体アゴニストの肥満を伴う糖尿病患者さんの大血管、症血管レベルの影響)
この研究はあくまでも観察研究で、また最近使われるようになった GLP-1/GIP 受容体アゴニストに効果がある薬剤ではなく、セマグルタイドのような第一世代の GRA と胃バイパス手術の効果を肥満と糖尿病を持つ患者さんで調べている。さすがに手術対象になるのはかなりの肥満で BMI の平均が46、一方 GRA投与群は BMI 平均が38と、最初から肥満で言えば胃バイパス手術を受けた人の方が重症と言える。ただ、A1cでは7.5対7.6と変わりはない。
胃バイパス手術群1657人、GRA 群2275人を7年以上に渡って追跡したのがこの研究だが、生存期間、大きな心血管イベント発生、腎障害発生、網膜症発生のいずれで見ても胃バイパス手術を受けた患者さんの方がリスクが低いことが示されている。
他にも様々な指標で比べているが、割愛する。無作為化しない観察研究であること、そして減量効果が大きい GLP-1/GIP 受容体アゴニストが含まれていないことから、GRA の心血管系への効果を否定する結果ではないと思う。
実際第二世代の GLP-1/GIP 受容体アゴニストの減量治療への期待は大きい。最後に紹介するケンブリッジ大学からの論文は、遺伝的肥満の中で最も多いメラノコルチン受容体 (MC4R) 機能不全による肥満をGRAで治療できることを示した研究で、8月26日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Tirzepatide leads to weight reduction in people with obesity due to MC4R deficiency(TirzepatideはMC4R不全による肥満の体重減少を誘導できる)」だ。
メラノコルチン受容体は傍室核にある食欲を抑える神経細胞に発現されており、食欲調節の大きな経路のうちレプチン・メラノコルチン経路に属している。MC4R に GLP-1 からのシグナルが入ることも知られているが、MC4R 以外の刺激回路が存在することから MC4R変異を持っていたとしても GLP-1 経路が肥満防止に作用する可能性は高い。
この研究では MC4R 変異による肥満と、それ以外の肥満を選んでリリーの Tirzepatide を投与し、60週にわたって追跡し、MC4R 変異を持っていても、他の肥満と全く同様に Tirzepatide は大きな減量効果を示したという結果だ。
即ち、GLP-1/GIP は MC4R から完全に独立した経路で作用していることがわかる。以上、GRAフィーバーはまだまだ続く。
遺伝的肥満の中で最も多いメラノコルチン受容(MC4R)体機能不全による肥満をGRAで治療できる!
Imp:
本当にマンジャロ効果は絶大なようです。
難行苦行のDM治療が、苦も無くできる。
早期診断・早期治療は大事です。
インシュリンが枯渇する前に!