今日まで、朝日新聞デジタル版に坂口さんとの対談が3回に分けて掲載された(https://digital.asahi.com/articles/ASV3C12MHV3CUTFL012M.html?iref=comtop_Tech_science_04)。有料版なので読んでいただけるかはわからないが、坂口さんの若い時代、外から見たら脱線を繰り返しながらも、自ら定めたテーマを揺らぐことなく追い続ける爆発的エネルギーがあったことがよくわかる。日本の研究の低迷も、助成金などの問題だけでなく、この個人のエネルギーを爆発させることが出来なくなっているのも一因かと思う。対談の中で坂口さんが「梁山泊」と表現した混沌とした中で人を育てることも低迷する日本の科学技術を活性化するために必要ではないかと思う。
この対談では、Tregの臨床応用の話は全く出てこないが、世界中ではTregを操作して免疫疾患を治す治療開発が進んでいる。臨床応用を強調するまでもなく、重要な概念は自然と世界中で臨床応用研究が進む。例えば先日紹介したTregを誘導するペプチド薬の開発はその例だろう(https://aasj.jp/news/watch/28415)。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、シグナル分子のエンジニアリングの第一人者スタンフォード大学 Garcia 研究室からの論文で、T細胞を刺激するシグナルを調節して、抗原特異的T細胞をTregに変えようとするエンジニアサイトカインの開発が、3月11日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Facile induction of immune tolerance by an interleukin-2–TGFβ surrogate agonist(インターロイキン2とTGFβ代理作動薬を用いて免疫トレランスを簡単に誘導する)」だ。
FoxP3がTregのマスター遺伝子である事がわかり、FoxP3誘導や維持に必要な条件が研究され、IL-2とともにTGFβシグナルが必須で、このシグナルによりリン酸化されたSTAT5とSMAD2/3がFoxP3転写を誘導することがわかっている。とすれば、IL-2とTGFβで刺激すればTreg優勢になると予測できるが、それぞれのサイトカインは単独でも強い副作用が起こるので、両方合わせて注射することはまず考えられない。
これに対し、IL-2にTGFβシグナルを弱く刺激することが知られている寄生虫由来のTGFβ類似分子 (TGFβS) を結合させて利用すれば、副作用を抑えてTregを誘導出来るのではと着想した。IL-2についてはα受容体へのアフィニティーを変えたエンジニア分子も検討し、最もTregの誘導効率の高い組み合わせを試験管内実験で検討し、最終的に通常のIL-2にTGFβSを直接つないで一つのサイトカインとして利用するのが一番誘導効率が高いことを見いだす。
次は生体内で同じことが起こるかだが、卵白アルブミン (OVA) に反応するT細胞を移植したマウスを抗原で刺激し、移植された細胞の運命を追跡する実験を行い、選択的にTregが誘導されることを確認している。実際にはTregにも様々な集団があり、最もトレランス誘導活性の高いRORγ陽性FoxP3陽性細胞が誘導出来ることを示している。
その上で、OVAで免疫後肺に抗原をチャレンジする喘息モデルで、IL-2-TGFβSを抗原と一緒に投与することで肺の炎症反応を抑えることができることを示している。他にも、ミエリンに対する自己免疫反応が起こる多発性硬化症モデルでも、自己免疫を強く抑えることを示している。
最後に、single cell RNA sequencing によって、TGFβとIL-2両方の刺激が同時に入ることが重要で、これによりリプログラムされたT細胞はTregへ分化するだけでなく、他の系列への分化を押さえ、しかもTreg を安定的に維持できることを示している。
結果は以上で、実験系自体がナイーブな抗原特異的T細胞を移植して経過を見る系なので、抗原特異的Tregの誘導はよくわかるが、IL-2-TGFβSが、例えばGvHと言った、モデル系とはことなる免疫異常を正常化できるかについてはわからない。もう少し臨床に近い系で検討しないと、おそらくそのまま臨床へ移すのは難しいだろう。
いずれにせよ、Tregを制御する技術は今急速に進んでいる。そのための研究はTregの理解の範囲を超えて、タンパク工学から創薬まで広い範囲で行われており、様々な実用例がどんどん生まれる気がする。

IL-2にTGFβシグナルを弱く刺激することが知られている寄生虫由来のTGFβ類似分子 (TGFβS) を結合させて利用すれば、副作用を抑えてTregを誘導出来るのではと着想した。
imp:
C.Garcia先生、D.Baker先生達のサイトカインシグナルの受容体幾何制御周辺の仕事は本当に興味深いです。
GPCR薬理学の知見が発想の源だそうです。
遺伝子操作によらない、低分子・ペプチド薬による生体内細胞制御’技術が誕生しつつあるのではないでしょうか?
『Geometric Tuning of Cytokine Receptor Association Modulates Synthetic Agonist Signaling』
bioRxiv 2025 Oct 13: