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5月2日 反芻動物の腸内に広がる繊毛虫の世界(4月30日 Science 掲載論文)

2026年5月2日
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このブログでゾウリムシなど繊毛虫についての論文はこれまで2回紹介している。1回目は2014年で、生殖核と栄養核の二つの核を持つゾウリムシで、何故同じ生殖核から接合時のオスメスの区別を維持する生殖核が分化するのかについてのエピジェネティックメカニズムについての論文(https://aasj.jp/news/watch/1538) 2回目はCondylostomとParducziaと呼ばれる繊毛虫では、我々の終止コドンを、時と場合に応じて終止コドンだけでなくアミノ酸の翻訳コードとしても使っていると言う2016年の論文(https://aasj.jp/news/watch/5541)で、いずれも我々の想像を超えた世界が繊毛虫では広がっていることを示していた。

今日紹介する中国武漢の中国アカデミーに属する海洋研究所からの論文は、牛やヒツジと言った反芻動物の家畜の腸内でメタン合成に関わる繊毛虫類についての多様性についての研究で、4月30日 Science に掲載された。タイトルは「Rumen ciliates modulate methane emissions in ruminants(腸内の繊毛虫が反芻動物のメタン放出に影響を与える)」だ。

テトラヒメナやゾウリムシなど一部のモデル繊毛虫はよく研究されていないが、ほとんどはまだゲノムも解読されていないのが現状のようだ。全く知らなかったが、反芻動物の腸内には多様な繊毛虫の世界が広がっており、メタン合成のアルケアに次いで反芻動物家畜の腸内でのメタン合成に寄与している。そこで、反芻家畜の腸内の繊毛虫の多様性をゲノムレベルで明らかにし、ゲノムに基づいて繊毛虫が何故メタン合成に大きく寄与しているのかを明らかにしようとしたのがこの研究だ。

まず様々な反芻家畜の腸から繊毛虫を分離し、単細胞レベルでゲノム配列決定を436種類について行っている。そして、メタゲノムデータから108種類のゲノムを再構成し、これまで解読されていた69種類と合わせて、ほぼ600種類の繊毛虫ゲノムを特定している。問題は生殖核と栄養核に分かれるゲノムの複雑性と、腸管というバクテリアや植物のゲノムのリッチな環境からマギレコ配列をクリーニングする必要があることで、このクリーニングを繰り返した結果、450種類のゲノムを特定している

系統樹は繊毛虫のカラー写真とともに示されており、ともかく美しい。最終的に4門、6科、18属にわけ、細胞の大きさやゲノムのサイズから Vestibuliferida (Vest) と Entodiniomorphia (Ento) に分けて議論している。この2種はゲノムサイズで大きく異なるが、これはEntoで水平遺伝子伝搬によるバクテリアやウイルスゲノムの取り込みが2倍以上高いことに起因している。

ゲノムデータに基づき、次に100頭の牛のコホート研究から得られたサンプルでは、ほとんどのVest、Entoがメタン合成に関わることが示され、メタン合成が家畜の中で進化してきたことを示唆している。そして、メタン合成レベルが異なる家畜で比べるとき、Vestの中のDasytrichaの存在が最も強くメタン合成と関わることを示している。

メタン合成の鍵になるhydrogenaseは、腸内で水平遺伝子伝搬で取り込まれたものが多くの種に分布して今に至っており、基本的には反芻動物腸内で進化した新しい仕組みと言える。Hydrogenaseの繊毛虫での存在部位を調べると、これも繊毛虫の特徴である、細胞膜と細胞質の境に存在する粘性の高いゲル状の層 (Ectoplasm) に存在し、繊毛の運動に関わるbasal body の回りに濃縮して存在していることが明らかになった。この構造を hydrogenobody (HB) と名付けている。通常メタンはミトコンドリアと同じような膜に囲まれた hydorogenosome (HS) で合成されるが、このような構造は家畜内の繊毛虫には存在しない。おもしろいことに野生のソウギョから分離した繊毛虫ではHBが全く存在しないことから、これも反芻動物の家畜化の過程で進化している。

最後に反芻動物腸内では嫌気環境が重要で、酸素を還元する酵素が必要になる。これも腸内細菌のFirmicutesから1回の水平伝搬で繊毛虫に遺伝子が移り、腸内環境に合わせて進化してきたことがわかる。特に、Vestの方で多くの酵素遺伝子を有しており、その結果好気環境に耐えながら、酸素を還元して嫌気環境を可能にする重要な微生物として働いていることがわかる。

以上、hydorogenase、HB、そしてoxygen reductaseのメタン合成三種の神器を家畜腸内で発達させた繊毛虫の生態がかなり明らかになった。この結果、メタン合成をしない家畜を可能にして、温暖化ガスを減らせるのか、今後実用面でもおもしろい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    hydorogenase、HB、そしてoxygen reductaseのメタン合成三種の神器を家畜腸内で発達させた繊毛虫の生態がかなり明らかになった。
    imp.
    メタン合成をしない家畜.
    有用な家畜になりそうです。

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