今日紹介するスイス・ベルン大学からの論文もゾウリムシと同じ繊毛虫の仲間、CondylostomとParduczia の話で、繊毛虫では特異的な終始コドンが存在しないことを示す研究が7月28日号発行予定のCellに掲載されている。タイトルは「Genetic codes with no dedicated stop codon: context-dependent translation termination (専用の終始コドンが存在しない遺伝子コード:コンテクストに依存した翻訳停止)」だ。
私たちはコドン表(すなわち遺伝子コードとアミノ酸を対応させた表)に記載されたコドンはほぼ全ての生物共通に使われると習う。このため、大腸菌で人間のタンパク質を作ることができる。ただ、幾つかの種でこのコドン表に合致しない例が見つかっている。特に、通常3種類存在する、releasing factorと呼ばれる分子に認識される翻訳の停止を決める終始コドンが、アミノ酸に対応するコードとして使われる例があることが繊毛虫やカビの仲間で知られていた。
この研究は、CondylostomとParducziaのゲノム解析から、これらの繊毛虫では全ての終始コドンに対応して、tRNAが存在し、アミノ酸に翻訳されることをまず明らかにしている。
では終始コドンは全くないのかと、releasing factorの性質を調べると、他の生物と同じように全ての終始コドンを認識できることが分かった。すなわち、繊毛虫では終始コドンが、ある時はアミノ酸に、ある時は翻訳停止に使われるいい加減さを持っていることが明らかになった。
最後に、専用の終始コドンなしに翻訳停止がどのように行われているかを調べ、mRNAの3’端に近い終始コドンが翻訳停止のために使われるが、離れた終始コドンは全てアミノ酸へ翻訳されることを見出している。
データを示しているわけではないが、これらの結果から、CondylostomとParducziaではmRNAの3’端に存在するpolyAに結合するPABPタンパク質が、releasing factorと相互作用するときだけ終始コドンが翻訳停止に使われるという仮説を提案している。
すなわち、繊毛虫たちは、同じ終始コドンやreleasing factorを使いながらも、異なる翻訳停止機構を開発したため、コドンルールにしばられない生物となった。一方、他の動物では翻訳停止機構がコドンルールを完全に制約したおかげで、私たちの習ったコドン表が成立していることを示している。
これから何が出てくるのか、繊毛虫はこれからもますます目が離せない、楽しみな生物だ。