この研究ではこれまでの症例報告に基づき、最初からエリスロポイエチン受容体遺伝子の再構成に着目して研究を行っている。すなわち、フィラデルフィア染色体様の転座により発症したALLの中にエリスロポイエチン受容体遺伝子の再構成が合併している症例を探し、14症例で免疫グロブリンやLAIRなどのB細胞で本来発現している遺伝子にエリスロポイエチン受容体遺伝子が転座しており、その結果、赤血球増多症で見つかっている受容体遺伝子異常と同じ短い分子が発現して、細胞の増殖を助けていることを突き止めている。なぜ赤血球分化で発現する遺伝子再構成がB細胞で起こるのか理解するため、再構成に直接関わるRAG遺伝子とエリスロポイエチン受容体遺伝子の両方が発現している分化段階を調べ、白血球とリンパ球に分化できる幹細胞で両方の発現が見られることを見つけている。また、患者さんの血液中には同じエリスロポイエチン受容体遺伝子の再構成を持っている白血球が見つかることから、おそらくまだ分化が決まっていない段階でエリスロポイエチン受容体遺伝子の再構成が起こり、その後にもう一つの染色体転座が加わって白血病化したのではないかと結論している。最後に、このエリスロポイエチン受容体のシグナル伝達に関わることがわかっているJAK-STATシグナル阻害剤を一般的に行われる化学療法と組み合わせる実験を行い、実験的に作成した白血病株では高い効果が得られることも示している。
実地臨床への取り組みも進んでいるようで、化学療法が効かなくなった25歳の患者さんがJAK阻害剤で治療できるという経験から、一般化学療法にJAK阻害剤を組み合わせる1/2相治験を始めているようだ。 B細胞を研究したことがある私にとって、エリスロポイエチン受容体がB細胞の白血病で発現して白血病細胞の増殖に関わっていること自体驚きだったが、フィラデルフィア染色体という発がんの決め手になる変異があっても、背景には治療可能な様々な分子が働いていることを改めて再認識した。しかし、B細胞は日々新しく作られているが、常に危ない橋を渡っていることもよくわかった。