AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 2月27日免疫システムがアルツハイマーを遅らせる(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2月27日免疫システムがアルツハイマーを遅らせる(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2016年2月27日
SNSシェア
  T細胞、B細胞がともに欠損する重傷免疫不全(SCID)マウスはフィラデルフィアにあるフォックスチェースガンセンターのボスマ夫妻によって発見された。私の教室ではB細胞の初期分化を研究していたので、すぐにメルからマウスをもらって研究に使ったが、当時このマウスは様々な生命過程に免疫系が必要かどうかを確かめるために盛んに使われた。例えば、scidマウスが妊娠可能であることが示されるまで、妊娠の維持には免疫系が必須であるという説も堂々と提唱されていた。しかしさすがにアルツハイマー病の進行に免疫系が関わると考える人は当時ほとんどいなかったと思う。今日紹介するカリフォルニア大学アーバイン校からの論文は免疫システムがアルツハイマー病の進行を遅らせていることを示した研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載されている。
  この研究ではscidマウスの代わりに、抗原受容体遺伝子の再構成が全く起こらないRAGノックアウト(KO)マウスをIL-2γ受容体KOマウスと掛け合わせ、T,B,NK細胞と完全に存在しないマウスを作った上で、このマウスをさらにアミロイドAβが蓄積してアルツハイマー病になるモデルマウスと掛け合わせ、免疫系が全くないとアルツハイマー病の経過がどう変化するかを見ている。
  結果だが、期待どおり(?)免疫系が欠損するとアミロイドAβの蓄積が2倍以上になる。この結果がこの研究の全てで、あとは様々な実験を追加して、なぜ免疫系が存在しないとアミロイドAβの蓄積が促進するのか調べている。詳細は割愛してこの研究が示唆するシナリオをまとめると次のようになる。
   免疫系と言ってもアミロイドAβ特異的な免疫反応が必要というわけではなく、実際に必要なのは免疫系によって血中に分泌される免疫グロブリンがアミロイドAβ蓄積を抑制している。メカニズムだが、免疫グロブリンが血中から脳内に移行すると、ミクログリアを刺激し、ミクログリアの貪食活動が誘導、この結果アミロイドAβの大きな沈殿を処理することで、アミロイドAβの蓄積を抑えている。逆に、免疫系が欠損すると、免疫グロブリンが作られず、ミクログリアを活性化できないため、アミロイドAβが処理できず蓄積するというシナリオだ。実際、ミクログリアを試験管内でアミロイドAβに対する抗体を持っていない免疫グロブリンで処理するだけで、アミロイドAβに対する貪食活性が上昇する。また同じ免疫グロブリンを免疫系の存在しないアルツハイマーモデルマウス脳内に投与すると、アミロイドAβの蓄積が半分に減る。
   実際に同じことが人でも起こっているかどうか調べるのは難しいが、HIVに感染して免疫が低下している多くのエイズ患者さんで痴呆の併発が多く見られたようだ。結果は意外だったが、もし免疫グロブリンによるマイクログリアの活性化がこれほど効果があるなら、ワクチンを開発する理由もなくなるかもしれない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。