日本にいるとマラリアの感染が問題になる事は、海外からの帰国者のケース以外にほとんどないだろう。しかし、発展途上国に目を移すと、最も厄介な感染症の一つだ。今日紹介する論文は、マラリアに対する新しい薬剤開発の可能性についての合衆国サンディエゴにあるUC San-Diegoとノバルティス社の研究所からの仕事で、今週Nature オンライン版に掲載された。マラリアはこれまでも研究人口の多い感染症だが、なかなか新薬が生まれてこなかった。その意味で、新しい可能性を示すこの研究の重要性はNatureも十分理解しているようだ。タイトルは、「Targeting Plasmodium PI(4)K to eliminate malaria (マラリア撲滅を可能にする原虫のPI(4)Kを標的治療)」で、結構力の入ったタイトルに聞こえる。
研究ではまず、細胞内に寄生するマラリアを殺す効果のある薬剤を数多くの化学化合物をスクリーニングすることで発見している。昔なら、効果があって副作用がなければそのまま利用可能な薬品へと開発が進められたかもしれないが、最近ではその化合物がなぜ効果があるのか、メカニズムをしっかり明らかにするのが普通だ。即ち、創薬のための標的分子が決まり、メカニズムがわかると、更に優れた薬剤の発見につながるチャンスが大きくなる。この仕事では、マラリア原虫の増殖抑制に効果のある化合物の標的を様々な方法で探索し、PI(4)Kと言う分子であることが決められる。標的分子が決まると、次はメカニズムの研究へと進む。この研究では、PI(4)Kが赤血球内に寄生したマラリア原虫が増殖する際、細胞膜の陥入に必須の分子が明らかにされる。このようにして、マラリア撲滅のための標的分子やプロセスが完成した。創薬標的へ向けたお手本の様な研究に思える。次は、安価で使いやすい薬品を開発するだけだ。タイトルへの力の入れ方から見て、十分期待できそうな気がする。
111月30日 感染症に対する科学の挑戦(Nature オンライン版掲載)
2013年11月30日