今日紹介するロンドン大学からの論文は、このSPMの中のRvDn-3 DPA(n-3 docosapentaenoic acid-derived D-series resolvin)の血中レベルが大きな日内変動を示し、心臓血管病の発症に強く関わっていることを示す研究で、Circulation Researchオンライン版に掲載された。タイトルは「Impaired Production and Diurnal Regulation of Vascular RvDn-3 DPA IncreasesSystemic Inflammation and Cardiovascular Disease(RvDn-3 ドコサペンタノイックアシッドの日内変動の異常が全身の炎症を高め心臓血管病に関わる)」だ。
研究では健常人の血液を定時的に採取し、含まれるSPMを測定し、その中から最も日内変動の大きいSPMとしてRvDn-3 DPAを選んでいる。このSPMは朝7時前に最も高く、午後2時ごろに最も低くなる。この日内変動を調節する直接の要因を調べ、血中のAch濃度と最も高い相関があること、および試験管内で血液にAchを加えると、RvDn-3 DPAが上昇することから、脳内でのAchのリズムがRvDn-3 DPAのリズムの原因であると結論している。
次に血中の白血球の活性化マーカーを調べると、RvDn-3 DPAの変動と逆相関する。即ち、生体内でRvDn-3 DPAが低下すると白血球が活性化される。そして、活性化された白血球に血小板が凝集する。即ち、RvDn-3 DPAの低い時間帯では梗塞の危険性が高まることを示唆している。
そこで、例えばカテーテル治療を必要としたような心臓血管病の患者さんについてRvDn-3 DPAを調べると、日内変動が壊れ、持続的に低くなっており、これに対応して白血球が活性化されている。ただこの異常は、心臓血管障害によりアデノシンの血中濃度が持続的に高まることが原因ではないかと結論している。
最後に動脈硬化モデルマウスを用いた動物実験で、RvDn-3 DPA投与が白血球と血小板の凝集を抑える働きがあることも確認している。
朝にRvDn-3 DPAが最も高く、炎症が抑えられているのは少し意外な気がする。しかし、様々な外界からの刺激を受ける昼間に低下して、炎症が起こりやすくするのは理にかなっているように思える。
ただ心臓病の方から考えると、この結果も理にかなっているように思えてくる。心筋梗塞などは朝起きてからに起こりやすい。そんな朝にRvDn-3 DPAを高めて白血球と血小板の凝集を避けることで、このような発作を防いでくれているなら納得だ。そして、動脈硬化が進んでアデノシンが多く血中に流れ、この防御機構が壊れると当然発作は起こりやすくなる。とすると、RvDn-3 DPAは発作の魔の時間を防ぐ重要なメカニズムに思えてくる。