ただ、科学は独立して競争することだけではないことも理解して欲しいと思っている。この目的で、「現在」について教えるとき、記録し続けるコホート研究の伝統と、コレクティブインテリジェンス(集合の知)について話をする。例えば、2014年に紹介した「外国語ができるとボケにくい」という論文では(http://aasj.jp/news/watch/1660)、なんと1936年に始めたコホート研究が2014年に論文として発表された。すなわち、研究者が課題を次世代へとつなぎながら研究を完成させていく姿に感銘を受ける。もちろん、我が国でも科学界としての伝統が生まれ始めたと思うが、21世紀になって崩壊したように見える。これも我国が学力低下の重要な一因のように思える。
これに対し、今日紹介する論文は、欧州の山々の頂上の植物相と気温を、なんと19世紀、我が国で言えば明治維新から最長145年にわたって観察し続けた記録で、欧州の様々な大学が共同で4月12日号のNatureに発表した。タイトルは「Accelerated increasee in plant species richness on mountain summits is linked to warming(山の頂上で起こっている植物種の増加の加速は温暖化と関連している)」だ。
もちろん最初から温暖化問題を調べるために行われた研究ではないだろう。ただ、山の頂上は地理的に一定していることから植物種の多様性を調べる最も安定した場所であるとするBraun Blanquetという植物学者に賛同して、302のヨーロッパの山々の頂上をなんと最も早い観察は1871年(明治3年)、から現在まで続けられている。
論文の最初の図では、この観察の創始期をリードした研究者の写真や活動の様子が掲載されており、この研究が代々受け継がれてきた研究であることがわかる。
結果は、予想通りというか、全ての頂上でほぼ同時に植物種の数の増加が加速し、これは頂上で記録された温度と相関している。そして、この増加の速度は、2000年以降1950−60年代の速度と比較して5倍以上になっていることが示されている。並行して、山頂の温度の変化も2000年前後から急速に上昇しており、植物相の変化が温度の変化を完全に反映していることがわかった。
もう一つ重要なのは、これまで種の数の増加として進んできた植物相の変化が、頂点に達して高地の植物が置き換えられる、植物相全体の転換ポイントに達してきていることで、実際サイズの大きい、葉っぱの大きな植物が急速に優勢になりつつあることもわかる。
山頂の気温だけでなく、それがもたらす効果の両方を最も明瞭に示した研究で、温暖化の深刻さを教えてくれるとともに、科学者の連帯を象徴する論文だと感銘を受けた。