しかし自らを振り返って、直感に反するような処方を行ったことがないのかと自問してみると、医者になってからもコラーゲン内服と同じような処方を書いたことに思い当たる。卒業してすぐ、胸部内科に入局したが、当時はセラチア菌から分泌されるダーゼンという酵素を、痰の排出をよくする目的で処方することが普通だった。処方集にも書かれており、先輩が処方するのを見て、当たり前のように処方していた。どうしてその時、本当にそのまま酵素として腸から吸収され、肺まで運ばれるのかなどと疑うことがなかったのか、不思議だし恥ずかしくさえ思う。医師の私でもそうなのだから、一般の人がコラーゲンを食べてお肌がスベスベと言われて疑わないのも当然のことだと思う。
医学研究者として、仲間が当たり前と行っていることにも疑いを持つことは、現在の医療体制を持続させるために最も重要なことだ。今日紹介するペンシルバニア大学を事務局としたチームは、目の炎症によるドライアイに対して、米国では普通に処方されているオメガ3脂肪酸の内服の効果を調べ直した臨床治験で4月14日号のThe New England Journal of Medicine に掲載された。タイトルは「n-3 fatty acid supplementation for the treatment of dry eye disease(ドライアイの治療に対するオメガ3脂肪酸)」だ。
オメガ3脂肪酸がガンの抑制など様々な効果があることは様々な臨床研究で示されてきたが、一般の人が思っているほど万能ではなく、対象によってはガンや神経でも効果がないと科学的に断じられた治験も結構ある。今日紹介する研究では、やはり効果があるというこれまでの治験報告に基づいてドライアイに普通に処方されているオメガ3脂肪酸の効果を調べるために、27臨床施設で、923人のドライアイ患者さんを選び、その中から様々な条件を満たした349人を無作為に分け、偽薬あるいはオメガ3脂肪酸(実際には2000mgのEPA, 1000mgのDHA)を毎日服用させ、1年間観察し、ドライアイ診断のためのPSDIスコアを用いて評価している。治験の方法は、無作為化二重盲検法を用いた完璧なものだ。
結果はオメガ脂肪酸を服用しても、偽薬を投与された群と全く症状に差がないという、ネガティブな結果に終わっている。また、診断時の様々な検査指標で患者さんを層別化しても、効いたと言える群はないことも判明した。
これまでも100人程度の対照を用いて同様の治験が行われ、これが処方する根拠となっていたようだが、この治験に対してはデザインが悪いと極めて批判的に論評している。すなわち、今回の治験を重視すべきと主張している。
医者の立場になると、病気に対して何か処方できることが重要になってしまい、値段が安く、他の医師も使っている場合は、あまり効果がないなと感じても使い続けることになる。その意味で、普及している処方を見直す努力を惜しまなかった点でこの治験は医師の良心を示す研究で、だからこそThe New England Journal of Medicineに掲載されたのだと思う。ただ、このような治験にかかる努力は大変だ。これからは、ネットなどを通してより簡単に効果の見直しができる方法の開発が必要だろう。本当は、医師の処方薬だけでなく、多くの健康食品がこのような検証を受けることができるように消費者と、医師がタッグを組んでいくことが必要だと思う。
健康食品としてテレビコマーシャルで、どんどん宣伝されているのが不思議てなりません。以前、福岡伸一さんが「あの手のものに効果がないのは少し考えれば分かることだが、難しいのは100%効かないことを証明することが出来ないから野放しになっている」とどこかに書かれていました。
そうですね、100%効かないことを証明するのは、10%効くことを証明するより難しいのでしょうね。
私自身も含め、医師側も毒でなければいいやと惰性で使ってしまいます。