毎日書いている論文ウォッチは主に生命科学の大学生以上を対象としているので、一般の方に対する情報としては少し難しい。そこで、今日から一般の方にもわかりやすい論文を紹介する「生命科学をわかりやすく」というセクションを設けることにした。毎日紹介することはできないが、こちらもぜひ読んでほしい。原則として、査読を受けた論文を対象としているので、間違った情報が発信される確率は低いが、もちろん捏造という場合もあるので、そこは大目に見てほしい。
第一回目の今日はウィーン医学大学からの論文で、最もよく処方される薬剤の一つ、胃酸を抑制する抗酸剤の使用が、アレルギーを増やしているという研究でNature Communicationに掲載された(Nature Communications (2019) 10:3298 | https://doi.org/10.1038/s41467-019-10914-6)。タイトルは「Country-wide medical records infer increased allergy risk of gastric acid inhibition (オーストリア全国の医療記録から胃酸抑制によりアレルギーのリスクが高まることが推察される)」だ。
この研究は最初から制酸剤を投与するとアレルギーリスクが高まるということを仮定して研究を進めている。2009年から2013年までの期間、オーストリアで処方された制酸剤、抗アレルギー剤、そして高脂血症や高血圧に対する一般的な処方を抜き出し、それぞれの薬剤が組み合わさる確率を調べただけの研究だ。これにより、制酸剤とアレルギー発症の関係を調べられると期待できる。
結論は明確で、様々な制酸剤(プロトンポンプ阻害剤が一番多い)が処方された後、抗アレルギー剤が処方される確率は、全オーストラリアで2倍近くに達し、一部の地域ではなんと3倍に達するという結果だ。
女性の方が影響を受ける確率が高く、また60歳以上の高齢者は、20歳以下の若者よりリスクが高い。
様々な原因が考えられるが、制酸剤の免疫細胞への直接作用よりは、胃酸をおさえて食べ物の消化が抑えられることで、抗原が分解されずに摂取されることが、最も大きく寄与しているようだ。
他にも原因は考えられるが、原因追及より先に制酸剤の処方をもう少し慎重に行うことが重要だと思う。
プロトンポンプ阻害薬は、壁細胞内で活性型に変換されプロトンポンプのシステイン残基とジスルフィド結合することで、プロトンポンプを不可逆的に阻害します。したがって、他の生体内タンパクとの非選択的な共有結合生成がアレルギー発症に関わっていないか懸念します。
PPIとアレルギーの関連を指摘。
消化器領域ではPPI内服によるcollagenous colitisも有名です。
こちらの関連の背後にも橋爪先生ご指摘のような機構が潜んでいるのかもしれません。