今年も各紙が今年の研究を総括する時期がやってきた。まず第一弾として、NatureはNews&Viewsとして紹介した論文の中から10報を選んで今年の注目論文としてリストしている。
- 変異型Huntintinタンパク質を細胞から除去する薬剤の開発(Zoghbi博士の紹介記事Nature 575, 57:本文575,203)AASJでも紹介した(https://aasj.jp/news/watch/11661)中国からの論文で、ポリグルタミンが細胞内に沈殿して神経細胞変性を誘導するのを抑制する薬剤の開発の話だ。本当なら、ハンチントン病だけでなく、CAGリピートで起こる多くの病気に光明がもたらされる。
- 海王星の新しい月の発見(Verbiscer博士の紹介記事 Nature 566,328:本文Nature 566, 350) 海王星の他の月の軌道の内側に存在する7番目の月で、写真はハッブル望遠鏡で捉えられていたが、今回明確に確認されたということらしい。
- 常温超電導(Hamlin博士の紹介記事Nature 569:491:本文 569,528) 一時この話題を一般メディアでも盛んに目にしたが、この論文は大きな進歩のようだ。要するに気圧を100万倍にするとLanthanum hydride化合物がなんと−25度程度で超電導を達成するらしい。
- ビタミンやミネラルの摂取に魚は最適(Pauly博士の紹介Nature 574,41:本文 574,95) 開発途上国でも、漁業が盛んな地域から100Km以内では、魚を食べることで必要なビタミンやミネラルが摂取され、欠損症の確率は低い。すなわち、日常魚を食べることは開発途上国の健康を守る重要な要因だが、多くの国では取った魚を外国に輸出するようになり、この供給システムが破壊されつつある。
- 完全なゲノム編集法(Platt博士による紹介記事 Nature 576, 48:本文 576, 149)つい最近このブログでも紹介したばかりだ(https://aasj.jp/news/watch/11863 )。目的の場所に切れ目を入れて、挿入したい配列を持った一本鎖RNAを鋳型にして逆転写酵素で読ますことで、正確にホストゲノムを変更する方法の開発だ。言ってみれば、普通の遺伝子クローニングで行うプロセスを細胞内で行うことに対応する。
- グリーンランドの氷河に閉じ込められていたメタンが放出される(Andrews博士の紹介記事、Nature 565,31:本文565, 73)氷河の下に閉じ込められた生物の沈殿には多くのメタンが含まれている。この量を初めて正確に測ったのがこの論文で、進む温暖化がこの過程を介してさらに悪化する可能性を示唆した。
- 父親由来のミトコンドリア(McWilliamらの紹介記事Nature 565,296:本文PNAS 115,13039)この論文もこのブログで紹介した(https://aasj.jp/news/watch/9318)。 「ミトコンドリアは母親の卵子由来」が現在のドグマだが、ミトコンドリア病の多発する家系のメンバーを詳しく調べて、父親からのミトコンドリアが世代を超えて伝えられているケースを発見したことを報告している。まさに次世代シークエンサーによって初めて可能になった研究だ。
- ロボットを走らせる(Lipson博士による紹介記事 Nature 568, 174: 本文Science Robotics 4, 2aau9354)専門外で全く理由はよくわからないが、足を持つロボットが実際の動物のように歩いたり走ったりすることは簡単ではなかったようだ。この研究では、データを蓄積して学習する新しいアルゴリズムでこれを可能にした。
- クリック化学(Topczewski博士の紹介文Nature 574,42:本文 574,86)一度の反応で様々な化合物を合成することをクリック化学と名付けたのは野依先生と同じ時にノーベル化学賞を受賞したSharpless博士だが、その典型がCuAAC反応と呼ばれるアジド化合物合成反応だ。この論文では、どんなアミノ酸とも反応して1200種類以上のアジド化合物を作る方法を示している。上海からの論文だが、今は上海の研究所におられるSharpless博士も共著者になっている。
- フィリピンで発見された新しい人類 (Andrews博士の紹介文Nature 568,31:本文 568,73) 骨のデータだけだったので紹介しそびれた論文だが、フィリピンのルソン島で、これまでの人類とは異なる骨や歯の形をした人類が発見されたという報告だ。この論文は読者の投票で一位に選ばれたので、10番目に掲載している。ただ、明日紹介しようと思っているが、ジャワでは10万年という新しい時代に直立原人が生きていたという発見が最近報告され、この研究も現実味を帯びてきた。