昨日ロイター通信は、トランプ大統領が新型コロナウイルスに対する3種類のワクチンが米国で近く投与可能になることを記者会見で述べたことを報告していた。あの反ワクチン論者のトランプも新型コロナについに白旗を上げたかと、痛快な気分になるが、ワクチンを待ち受ける市民の気持ちはそう単純でないことを、今日発行のScienceを読んで初めて知った。
フリーランスの記者Warren Cornwallさんの記事で、これほど市民の自由を制限している新型コロナウイルスに対してさえ、ワクチンに強い期待を抱く市民が50%を切るという報告だ。
米国の多くの都市でロックダウンが行われた5月中旬、「もしワクチンが利用可能になったら接種を受けますか?」という質問に対して、受けると答えた人が49%、わからないと答えた人が31%、そして行かないと答えた人が20%に達するという結果だ。
60歳以上の高齢者では67%が受けると答えている一方、60歳以下で受けると答えた人は40%にすぎない。そして最も驚くのは、新型コロナで死亡率が最も高かった黒人層で受けると答えた人が25%、受けないと答えた人が40%にも達する事だ。
我が国でもワクチンの効果についてはSNS上で議論が行われているが、あまりワクチンが危険だという議論は見かけない。しかし米国では、新型コロナウイルス感染が始まった初期から、反ワクチン運動が「感染してもほとんどの人が回復する新型コロナウイルスに対するワクチンは意味がない」とか、「新しいワクチンの安全性は長期的には全く担保されておらず、これまで開発された中では最も危険なワクチン」などと、SNSを通してキャンペーンを行なっていることがこの結果に反映されているようだ。
実際、Youtubeに新型コロナワクチンによる死者が、感染による死者を超えると訴えた反ワクチンビデオは700万ビューを記録し、削除しても削除してもアップロードされ続けているということが5月初めに報道されていた(https://www.cnbc.com/2020/05/07/facebook-youtube-struggling-to-remove-plandemic-conspiracy-video.html)。
ワクチンに対する米国の複雑な事情がよくわかる記事だが、我が国には関係のない対岸の火事と静観していいのか少し気になる。トランプですらワクチンを声高に叫ぶご時世だ。大阪府知事が「ワクチンで新型コロナウイルスに対して反転攻勢」と言うのも理解できるが、世界的に普及し多くの女性を子宮頸がんから守ったことが明らかなパピローマワクチンの副反応問題を、今もなお解決できていない国が我が日本であることも忘れてはならない。
間違いなくワクチンは新型コロナウイルスに対する重要な武器になる。だからこそ、一方的に宣伝するのではなく、ワクチンの可能性と想定される問題について、科学者の言葉で語り始めることが大事だと思う。