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5月13日 線維筋痛症にメトフォルミンが効く (5月6日Plos One掲載論文)

2019年5月13日
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Fibromyalgia (FM: 線維筋痛症)は、脳内での痛みの閾値が低下することで、他の人より小さな刺激でも強い痛みとして感じてしまう病気で、苦しんでいる人は多い。一番問題は、診断が確立しておらず、専門医の診断と自己診断が大きく食い違うことについては以前紹介した(http://aasj.jp/news/watch/9681)。このため、FMの診断を確定できなくとも、助けてくれる血液検査が求められていた。

今日紹介するテキサス大学ガルベストン校からの論文はFMの患者さんがいわゆるインシュリン抵抗性の状態にあり、メトフォルミンで痛みを軽減できるという、本当なら患者さんにとって画期的な研究で、5月6日号のPlos Oneに掲載された。タイトルは「Is insulin resistance the cause of fibromyalgia? A preliminary report (インシュリン抵抗性は線維筋痛症の原因か?:予備的報告)」だ。

このグループは、糖尿病による脳の微小循環障害を研究していたのだろう。その延長で、脳の痛みの閾値が下がるFMにも何らかの差があるのではないかと、様々な指標を検討していた。実際、これまでの研究でFMの人では糖尿病のリスクが高いことも知られている。

この結果出てきたのが糖尿病の診断に使われるHbA1cで、全体で見ると正常範囲に収まるように見えるが、年齢別にプロットすると、それぞれの年齢で正常よりだいたい0.6高いことに気がついた。

ほとんど詳しい検査が行われていないこと、および23人という小規模研究なので何とも言えないが、この傾向をインシュリン抵抗性による可能性が高いと結論している。

この上で、16人の患者さんに糖尿病に最も用いられるメトフォルミンを1日1000mg投与すると、なんと8人の患者さんで痛みが完全に軽減し、残りの患者さんも、通常の治療よりははるかに痛みが軽減したという結果だ。

話はこれだけで、治験としては全く不十分なため、トップジャーナルには掲載できないのだろうと思う。しかし、この可能性はかなり短期間に大規模治験で確認できる。またメトフォルミンは、現在では糖尿病の予防にすら使われる、薬の中では長期間服用することに関するデータがしっかりある薬剤で、副作用は少ない。したがって、二重盲検無作為化試験もすぐに計画できる。もし治験結果がポジティブなら、治療だけでなくFMのメカニズムも含めこの分野の画期的なブレークスルーになるように思う。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    糖尿病による脳の微小循環障害の研究+FM患者でDMリスクが高い
    →FM患者様の痛みをDM薬(メトホルミン)で治療できるかも?

    Imp:『生命科学クライシス』(白揚社)によると、メトホルミン、薬草の抽出物として発見され、当初はインフルエンザ、マラリヤ治療目的で研究されてたとか。血糖値を下げる詳細メカニズムは現在でも不明だそうです。
    このグループ、数あるDM薬から、何故、メトホルミンを選択したのでしょう?

    1. nishikawa より:

      実際には糖尿病というより、インシュリン抵抗性なので、わたしもその立場になればメトフォルミンからいくと思います。

  2. H Ino より:

    線維筋痛症患者の線維芽細胞ではAMPK活性は減少しているそうです。メトホルミンは(肝臓において)AMPKを活性化させる作用が確認されたそうですし、下記の論文によるとカロリー制限とメトホルミンは線維筋痛症のAMPK抑制を改善する働きがあるようです。

    Metformin and caloric restriction induce an AMPK-dependent restoration of mitochondrial dysfunction in fibroblasts from Fibromyalgia patients.
    Biochim Biophys Acta. 2015 Jul; 1852(7):1257-67. PMID:25779083
    Alcocer-Gómez E, Garrido-Maraver J, Bullón P, Marín-Aguilar F, Cotán D, Carrión AM, Alvarez-Suarez JM, Giampieri F, Sánchez-Alcazar JA, Battino M, Cordero MD

  3. Kaho より:

    1000mg、何日間服用されたのでしょうか?

    1. nishikawa より:

      もともと糖尿治療を受けた線維筋痛症の患者さんの痛みが取れたという話なので、メトフォルミンはずっと飲んでも問題ないと思います。私も何年も飲んでいます。ただ、効き目は比較的早く出るようです。

  4. 岩田順子 より:

    線維筋痛症を患って30年が経ちました。今は副作用が一番、少なかったトラムセット配合剤をここ、何年間続けて飲んでおりますが、頭の鈍り、毎日ではありませんが、纏まりが付かなくなったり、やはり長く飲んでいると副作用も出る様になってきましたので、ネットで調べて居りましたらメトフォルミンを知りましたが、日本ではまだ、認可されてはいないのでしょうか?トラムセットも耐性の為に効き目が落ちております。もっと、詳しい事を知りたいのですがネットではもう、調べようがありません。宜しくお願いを申し上げます。

    1. nishikawa より:

      メトフォルミンは普通に使われている安い薬です。オープンアクセスですので論文(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0216079)を主治医に示してもしHA1cがある程度高い様なら、500mg1日2回飲んでみたらどうでしょうか。下痢などが出ることはありますが、ほとんど問題がない薬です。

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