クリスパーはもともとバクテリアが、外来のウイルスやプラスミドから自分のゲノムを守るために進化してきたシステムだが、逆にウイルスに取り込まれて、バクテリアの免疫を抑える方向にすら使われている、融通無碍のシステムだ。従って、クリスパーの利用法を学ぶ目的で、今も自然に存在するクリスパー/Casシステムを探索して、新しい機能を探す研究が行われている。
今日紹介するコロンビア大学からの論文は、クリスパーシステムを特定の遺伝子サイトに潜り込むために使っているトランスポゾンの発見でNature オンライン版に掲載された。タイトルは「transposon-encoded CRISPR–Cas systems direct rNA-guided DNA integration(CRISPR-Cas システムをコードするトランスポゾンはRNAのガイドによるDNAへのインテグレーションを可能にする)」だ。
この研究では、自然に存在するCRISPRシステムを探索している中で、コレラ菌に存在するトランスポゾンが、CRISPR/Casを持っているが、DNA切断活性を持つCas9は持っていないことを発見する。
もともとトランスポゾンは、自身でDNAを切断し、ホストゲノムと統合できる活性を持っている。ただ、これには全くゲノムの場所特異性はない。著者らは、新たに見つけたクリスパーシステムを持つトランスポゾンが、クリスパーをゲノムへの統合場所の特異性を決めるのに使っているのではと考えた。
詳細は全て省くが、まずこのトランスポゾンのコードするTniQとCas8,Cas7, Cas6が繋がった分子が、ガイドRNAに導かれてバクテリアゲノムの特定の場所に結合し、次にその場所にトランスポゾン分子tnsCをリクルートしてトランスポゾン複合体が集められ、自らのDNAを統合させる過程を明らかにした。
実験のほとんどはこの生化学過程の解析だが、最後にガイドRNAを用いて、狙ったところに正確にトランスポゾンが挿入されていることを示している。
本当は大事な生化学的過程の詳細は省いてしまったが、この論文のメッセージは、ゲノムへの侵入を防ぐ目的のクリスパーを、ゲノムへ統合するために用いているシステムがあるということで、バクテリア間での重要な遺伝子のやりとりができる新しい系が進化したと言えるかもしれない。
ただ、クリスパーを技術として見る観点から言えば、トランスポゾンと組み合わせると、これまで悲願だった大きな遺伝子の狙った場所への挿入が可能になったことになる。おそらくこのためには、システムを2−3個の独立したベクターに組み込む必要があると思うが、近いうちにそんなシステムが販売される様な気がする。
悲願だった大きな遺伝子の狙った場所への挿入がかのうになったことになる。
→巨大なジストロフィン遺伝子も操作可能になるかもしれませんね。
一部だけスキップ方法でよく、全部入れるのは難しいでしょう。