免疫治療がガン治療の大黒柱になることを疑う人はもういなくなったが、しかし10年後にどの免疫治療が中心に来ているのか予想することは難しい。というのも、論文を読んでいると、多様で豊かな発想の免疫治療法が開発されており、免疫治療のレパートリーは急速に拡大しているからだ。そんなわけで、7月19日AASJのジャーナルクラブでは、これまで紹介した新しい免疫治療についてまとめることにした(https://www.youtube.com/watch?v=vxZFpDx4rIg)。
今日紹介するコロンビア大学からの論文も是非紹介したいと思われる免疫治療法の新顔で、なんとラマの抗体を分泌するバクテリアをガン局所に注射して免疫を高める、一種のアジュバント治療といっていいい。タイトルは「Programmable bacteria induce durable tumor regression and systemic antitumor immunity(プログラム出来るバクテリアは持続的ガンの退縮と全身性のガン免疫を誘導できる)」だ。
バクテリアを遺伝子操作することは簡単だが、ヒトの抗体のような2種類のペプチドが折りたたまれた複雑な構造を安定に分泌させるのは簡単ではない。この問題を解決してくれるのがラクダ科の動物の抗体で、なんと一本のH鏁ペプチドだけで機能する。
主にラマで作らせた抗体の遺伝子を利用する技術は現在急速に発展しており、4月には食べられる抗体として家畜の餌に混ぜて食べさせる抗体の論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/9968)。すなわち、バクテリアや酵母に安定的に抗体を作らせることができる。
この研究ではすでに開発されていたラマのCD47抗体遺伝子をバクテリアに導入し、細胞内に蓄積した抗体を、バクテリアが局所増殖して一定の数に達したとき破壊されるようにして(バクテリアのクオラムセンシングと呼ばれる性質を利用している)吐き出させるという戦略をとっている。CD47は細胞がマクロファージに食べられるのを阻止する分子で、これを抑制するとガン細胞がマクロファージに貪食され、ガン抗原が調整されるのを促進するという発想だ。
吐き出された抗体が、CD47を阻害することなど様々な条件設定を行った後、このバクテリアをガンを植えた局所に注射し、ガン免疫が誘導されるか調べると、腫瘍組織に注射したときだけ強い抑制効果がみられる。
また、他の場所に移植した腫瘍も消失するし、リンパ組織にガン特異的なペプチドに対する免疫細胞が誘導できることも示しており、読んだ限りはかなり有望に思えた。おそらくすぐに治験が始まるように思うが、この方法だとCD47の抑制だけでなく、様々なアジュバント作用をバクテリアに期待することも可能で、発展性は高いように思う。もちろん、オブジーボなどのチェックポイント治療との相性はいいだろう。
実際のデータの詳細はほとんど割愛したので、詳しく知りたい人は是非7月19日夕方7時のジャーナルクラブを見て欲しい(https://www.youtube.com/watch?v=vxZFpDx4rIg)。
免疫治療のレパートリーは急速に拡大中
→本当、ユニークなideaがあるものです。細菌と腫瘍免疫の関連はコーリー先生の時代から疑われている事柄。いわば、がん免疫療法の源流で、これからも様々なideaが湧き出してくるように思います。
それにしても、ラクダ科の動物ラマの抗体、なんと一本のH鏁ペプチドだけで機能する。
→本当に、自然はなんでもありですね。