読売新聞は元の記事のペーストを許していません。必要な方は以下のURLを参照。 http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130726-OYT1T00025.htm
脳研究は21世紀の重要分野である事は間違いがない。利根川さんも免疫学から脳研究に移った後は、若い人々にやるなら脳研究だとはっぱをかけていたのを良く覚えている。脳研究は何を問題にしているのかは(例えば過誤記憶)一般の人でもよく理解できるのだが、実際の研究となると、研究手法やプロトコルが極めて複雑でわかりにくい事が多い。多分科学者として教育を受けないと何をしているのかほとんどわからないのではないだろうか。この困難を顧みず挑戦した今回の読売の記事は個人的には評価したい。これからも多くの優れた成果が期待される分野だ。ただ、記事の内容は、利根川さんと理化学研究所チーム(日本人と間違ってしまう)が、過誤記憶を光を使って呼び起こして、成功した。と言った誤解の多い記事になっている。 まず研究内容とは関係ないが、利根川さんが日本人で理研脳研究センターの所長である事は間違いがない。ただ利根川進・米マサチューセッツ工科大教授と理化学研究所のチームと書かれると、日本の研究チームかと誤解する。実際ここで言う理研チームとはアメリカチームで(利根川さんの主催する研究施設を理研は支援している)、実際に日本人は入っていない。これは一種理研と言う言葉に条件づけられた、「過誤記憶」の呼びおこしだろう。 さて研究については、極めて複雑だ。この様な内容を一般の方でもわかるようにどう表現するかは記者の腕のふるいどころだ。ただ今回も合格点とは言いがたい。とくに、「海馬に光が当たったことで安全な部屋の記憶がよみがえり」などと書かれると、脳の中で光を感じているのではと誤解しないだろうか? この場合の光は、光が当たると開くナトリウムチャンネル遺伝子を発現させた細胞を刺激するために使っている。実際には電極で刺激するのと同じだ。これは2005年ぐらいから使われ始めた、光遺伝学と呼ばれる神経のリモートコントロール法だ。勿論、図も使って説明されている結論は正しい。優れた脳研究は、誰でもがわかる質問を、専門家しかわからない方法で研究している。しかし複雑な実験手法をどう伝えるか、知識、研鑽が要求される。是非記者の方も努力してほしい。ただ言葉足らずだと必ず誤解を招く。まさに記事自体も利根川さんが研究対象の例と言える。